祭のものぐさもったり手帳

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旅戦の王女 第69話『盗賊を拾った日15』

 「しかし今回は当たりだったなぁ!」
 「あぁ、まったくだ。ちっぽけな村だから大したもんねぇだろって思ってたら、村人の連中、結構貯めてやがったしなぁ」
 「いやー、それもこれも、お頭のおかげぇ!…ってかぁ?」
 「…その通り!」
 ドンとまだ泡の残るジョッキをテーブルに叩きつけ、青年は椅子の上に立ち上がった。まだ成人も迎えていない若者だったが、体格がよく筋肉は引き締まっており、そこいらの大人よりも迫力があった。青年の肩には、星を象ったペイントが彫られており、不思議な自信に満ち溢れていた。
 青年は椅子の上に立ち上がったあと、両腕を広げ、赤く逆立った髪を振り上げながら、
 「あれもこれもそれもどれもかれもなにも…ぜぇんぶ、お頭ァことぉ…我らがリンリンちゃんのおかげぇ!」
 酔いも回っているのか、ふにゃふにゃと危なっかしい様子で、でも青年は高らかに賛美の言葉を上げた。
 「美しくぅ…っスタイル抜群!気高い意思に、俺たちをやさしぃ?っく包んでくれる母性!その上希代の策士ときたもんだぁ!リンリンちゃんこそぉ、俺たちのえんじぇぇる…いや、勝利の女神様ッスよお!!!」
 わああぁと皆がジョッキを掲げて歓喜した。あまりにもわざとらしい過剰な演説であったが、場を盛り上げるには十分だった。
 「俺ぁ、いつかあの女神様を射止めるッスよ!」
 「ガイアにゃあ、ムリムリー」
 「がっははは」
 宴もたけなわ、盗賊集団『チョイナー・ベル』は自分たちの勝利に酔いしれ、陣取った酒場で大宴会を開いていた。店の当主が倉庫でガタガタ震える中、ビール樽を勝手に開けては勝手に飲み干し、皿が割れようが椅子が壊れようがお構いなしの大騒ぎだった。
 「…おぉい」
 そんな騒ぎの中、カランと扉が開き、一人の盗賊が入ってきた。心なしか疲れているようだ。
 「おぉい、ガイアぁー…。次の見張りお前だろうが、さっさと持ち場につけよ」
 それまで騒ぎの中心にいた赤髪の体格のいい青年―ガイアは驚いて振り向いた。
 「…え!?マジッスか?」
 身に覚えがないのか、挙動不審に聞き返すガイアに対し、先ほどまで見張り番をしていた盗賊は伸びきった髭をボリボリかきながら頷いた。
 「ほうら、さっさと行けよぉ!」
 「酔って泉に落ちんじゃねぇーぞー?」
 「ちょ、ちょっとっ!」
 酒盛りをしている盗賊たちから野次が飛び、ガイアはあれよあれよという間に酒場から追い出されてしまった。
 「…くそー…」
 腹いせに酒場の壁をガンと蹴り上げた。するとべこんという鈍い音がして、気持ちがいいくらいに綺麗なへこみが出来た。
 すっかり酔いが回って火照った体に、夜風がひゅうと吹き込み、ガイアは思わずぶるりと身震いをした。
 「……しゃーないッス…これも愛しのリンリンちゃんのため…っ!」
 愛して止まない若きお頭の顔を思い浮かべ、ガイアは夜の村を歩き出した。


 ―夜。
 家の灯も消えた頃、月明かりが照らす中、コロナたちは村を移動していた。
 「本当だ。見張りも手薄になってるし、これなら大丈夫だね!」
 「なんかドキドキするな!」
 今度はスパイか、それとも遠い異国の忍びのつもりか…―ノンキにもこの状況を楽しんでいるトーンとファルルに、コロナがぐさりと忠言した。
 「…言っておくが、お前たちにかけている魔法は『姿が見えなくなる』んじゃなくて、『姿を認識しづらくなる』だけなんだからな…?いわゆる動物が持つ気配を最低限にする魔法で、つまり大きな声出したり、派手なことやったらあっという間に気付かれるんだぞ?」
 ぶちぶち長い忠言を半分ほどだけ理解したのか、トーンとファルルは同時に「はぁい」と気のない返事をあげた。
 「…まぁ、それぐらいで十分でさァ」
 その三人のやり取りを聞いていたハルが声を出した。
 「…最悪、久遠の泉まで、辿りつければあとはどうにでもなるんですからねぇい」
 ハルが猫のように瞳をキリと光らせ、前を見据えた。


     * * *


ようやくガイア登場です。
性格はいつも通りのあの感じ。

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旅戦の王女 第68話『盗賊を拾った日14』

 部屋に入るとすぐさまファルルは布団に潜り込み、ものの数秒でスヤスヤと寝息を立て始めた。コロナはファルルが寝たのを確認したあと、ベッドに座って少し本を読んだ。三十分ほど経ったあと、コロナはファルルのことを起こさないようにそっと部屋を出た。
 部屋を出ると食堂からカチャカチャという音と、わずかな明かりが漏れていた。おかみさんが片付けでもしているのだろう。
 コロナはそうっと歩を進め、隣の部屋へと向かった。隣の部屋にはトーンとハルが泊まっている。
 (…さてどうしたものか…)
 勝手に入って見つかったら角が立つし、でもノックすればトーンまで起きてやかましいことになるかもしれない。コロナがそう考えあぐねいていると、
 ―キィ…。
 「あ!
 突然扉が開き始めたのだ。びっくりしたコロナは思わずその場から離れようと踵を返す。
 「…コロナ?」
 ―しかし、もちろんのことあっけなく見つかってしまい、コロナは観念して扉の前に戻った。少しだけ開けた扉から、ハルが銀髪を揺らして伺い見ている。
 「………」
 どう切り出そうかとコロナが目を伏せ、考えていると、ハルは苦笑したようにため息をついた。
 「…ま、入ってくだせぇ」
 コロナの考えは見通されているらしい。言われるがまま、コロナは部屋へと入った。
 中ではトーンがベッドに埋まりながらすやすや眠っていた。安心しきった寝顔に、コロナはほっと肩を撫で下ろす。
 「…手握っててほしいって」
 ハルが寝ているトーンの側に歩み寄る。
 「寝るまで、手を握っていてほしいってこの子に言われて、さっきまで手ぇ繋いでたんですよ」
 そう言ってハルはぴんと跳ねた黒髪を優しく撫でた。
 「…寂しいんでしょうねぇ…」
 「………」
 相変わらず仏頂面を貫くコロナに、ハルは問いかけた。
 「…どこの娘さんですかい、トーンは」
 勘が強いハルにはわかっていたらしい。…トーンは少女であり、そしてそれが『ただの少女』ではないことを。王から直々に勅令を受けて旅をしている賢者コロナと近衛兵(見習い)の少年ファルルに守られるようにしている、謎の存在。
 「………」
 コロナは唇をつぐみ、足元を見た。
 ファルルにもまだ告げていない事実―トーンはモノケディアの王女・ミクロであるということを…。
 「………」
 「……言えねぇですかい?」
 オッドアイの瞳が聞いてくる。
 「………今は、言えない」
 コロナは重々しく口を開いた。ハルはその答えを予想していたようで、さしてがっかりした様子もなく「そうですかぃ」と小さく言った。
 「…トーンとファルルはお前に懐いているけど…俺はそこまで信用はしていない」
 仏頂面を更に硬くさせ、コロナが呟いた。
 「まだ信用ないんですねぇい?」
 「シーフを簡単に信用できない」
 差別でしょう、そりゃあ…とハルがあははと茶化すように笑った。なんとなくコロナはムッとなったので、唇を引き結ぶ。
 やれやれと言った様子でハルは続けた。
 「…言っときまさぁ、俺はその闇司祭なんちゃらとは関係ありゃぁしませんよ?」
 両手をぱっと上げ、自分が潔白であることをアピールする。しかしコロナは納得ができない。
 「…じゃあその目はどう説明するつもりだ?」
 「目ェ?」
 「闇司祭もオッドアイだ」
 淀みなくコロナは言った。
 それを聞いたハルは「あぁ…」と吐息のように頷き、ふむと考え込んだ。無意識なのか右手がポケットの紙タバコに伸びたが、向かいで寝ているトーンの顔を見て、すっと手を引っ込めた。
 「…わかっちゃぁいるんでしょう?」
 なぁ、賢者様?とハルがオッドアイの瞳でしゃくるように見上げてきた。一瞬闇司祭の瞳と被ったが、コロナは唇をぐっと引き結んでこらえた。
 そして少し間を置いてから、ゆっくりとコロナは唇を開いた。
 「…お前からは負の力は感じられないし、半日いて悪い奴ではないというのもわかった…」
 ゆっくりゆっくり、今日これまでを振り返る。
 盗賊に襲われ川原で倒れていたこと、飄々としているが子供である自分たちを気遣っていたこと、たった一晩しかいなかったのに打ち解けていたおかみさんのこと…。
 「…お前は闇司祭とは関係ない」
 ―そう結論した。

 「ならどうして未だに俺のことを信用していないんですかぃ?」
 ハルはほっとしたあと、茶化すように言った。コロナはうぅんと眉をひそめる。
 「…お前がまだ何か隠している気がするから」
 「何を?」
 そう問われ、コロナはぐっと口をつぐんだ。
 しかしそれはわかる。―ハルはまだ何かを隠している。
 それが重要なことかそうでないことかはわからないが、コロナがハルを完璧に信用していないように、ハル自身もコロナたちに何かの疑いを持ち、完璧に信用していないのだ。
 「…ま」
 ハルが立ち上がる。
 「隠し事はお互い様じゃあないでしょうか?」
 長身からコロナを見下ろし、にっと口角を吊り上げて笑った。その様子は深刻というよりはどこか悪戯めいていて、「早く気づいてごらん」というぐらいだった。
 「…ほら、まだ時間はありまさぁ。早く寝ておかないと、突撃できないですぜぃ?」
 ぽんとコロナの頭を撫で、ハルは欠伸をしながらベッドへと戻った。
 「………」
 コロナは撫でられた頭を少し触り、再び感じた面映い気持ちを押し込み、黙って部屋をあとにした。


   * * *


ハルさんとコロナの会話。ハルさんが何を隠しているのかは内緒。

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旅戦の王女 第67話『盗賊を拾った日13』

 「おかみさん」
 地図を見ていたハルのオッドアイが問いかけた。
 「盗賊がこの宿屋に来たのは俺がいた一回だけですかねぇ?」
 おかみさんは困ったように眉を下げ、
 「…えぇ、そうよ。あなたが襲われたあと、あらかた中を物色されて、それからは一度も来てないわ。盗賊たちがここをあとにするときに『家から一歩も出るなよ』って言われたから…私も怖くて外には出ていないし…」
 「………」
 おかみさんの言葉にハルは考えるように瞳を伏せた。タバコに手は伸びない。
 「…なぁ、ベッドは空いているんですかい?」
 「えぇ、銀食器や額縁なんかは盗まれたけど…ベッドは無事よ」
 ハルは細くしなやかな指を4本だし、
 「大人一人、子供一人…泊めてくれませんかねぇ?」
 そう言った。
 「―え?」
 「盗賊たちはそんな同じ家に二度も三度も入りゃあしないでしょうし、それにおかみさんがおとなしくしていたおかげで見張りも特別厳しかぁない。…どうでしょう?宿代は盗賊からお宝奪ったあとの出世払い…ということでいいですかねぇい?」
 きょとんとしている一同を尻目に、ハルはにぃと形のいい唇を引いた。
 「おいおいっ」
 コロナがすかさず間に割って入る。
 「こんなときにノンキに泊まろうっていうのか!?」
 「まさかぁ」
 ハルはにやにやしながら、
 「なぁに、夜まで待とうって話ですよ」
 ―ハルの作戦は『夜襲』だった。
 夜、盗賊たちが寝静まり、見張りたちの視界が悪くなった頃に久遠の泉まで向かい、一気に女ボスを叩くというものだった。
 「…でもさぁ、盗賊って夜に活動するもんじゃねぇの?」
 ファルルの質問に、ハルはあははと乾いた笑いを漏らす。
 「まぁ、そりゃそうなんですがねぇい。―ただ昼よりはよっぽど見張りたちの目を掻い潜りやすいですし、それに女ボスはまず寝てるはずでさぁ」
 「なんで?」
 やけに自信たっぷりに言うので、一同が不思議に思っていると、ハルは近くにいたトーンの頬を軽くむいっとつまんだ。
 「なっ!」
 びっくりしたのはコロナだった。―とてもそうは見えないとは言え、一国の王女の頬をつねるとは!
 事情を知らないとは恐ろしいもので、周りはむしろコロナが驚いたことに驚いていた。つままれた当の本人も、「ふぇ?」と気の抜けた声を上げる。
 「夜更かしはお肌の大敵ですからねぇい」
 にぃと笑うハルに、コロナはただただ青ざめる。
 (…そんな理由でか?)

 かくして四人は日が暮れるまでの間、宿屋で休憩を取ることにした。部屋は二人で一部屋使うことになったのだが、
 「じゃあ、俺はこいつと一緒でいいですかい?」
 ハルがそう言ってトーンの頭をぽんとやった。コロナとしては未だ得体の知れないシーフと王女を同じ部屋に、というのに抵抗を感じていたのだが、
 「僕もハルさんとがいいーっ」
 とかトーン自身が言っちゃうので、コロナは渋々承諾した。
 自然とコロナとファルルは同じ部屋ということになり、
 「枕投げしようぜ、枕投げ」
 「だが断る」
 なんてやり取りをしていた。最初こそはしゃいでいたファルルだったが、すぐに疲れが出たのか、そのままベッドに丸まって眠り込んでしまった。その姿がまるで子猫のようだったので、なんとなく微笑ましい気分になりながら、コロナも横になって眠った。
 日が傾いてきた頃、おかみさんが四人のために食事を用意してくれていた。
 中途半端な時間に眠ったせいか、ボーっとする頭を持ち上げて、四人はありがたく食事をいただいた。おかみさんが得意だという暖かいシチューをほお張る。
 「おいしーいっ」
 「んまーいっ」
 ファルルとトーンはにこにこしながらスプーンを動かす。その様子をおかみさんは「まぁまぁ、火傷しないようにね」と嬉しそうに眺めていた。
 ハルからそっと耳打ちされたのだが、どうやらこのおかみさんは12年前に孫を亡くしていたというのだ。そしてその亡くなった孫がちょうどハルと同い年くらいだったらしく、それも手伝って手厚いもてなしを受けたらしい。
 「…『闇の現事件』か?」
 声を押し殺し、コロナが問いかける。ハルはこくりと頷いた。
 「…お孫さん、モノケディアの兵隊さんだったみたいさねぇ…出兵してそのまま、だったらしいでさァ」
 「………」
 優しいおかみさんの横顔が急激に寂しく見えてくる。―その孫も、このシチューを食べたのだろうか?
 スプーンで一口すすると、豊かなミルクの香りと、かすかな塩味がした。



   * * *



シンプルに夜襲作戦で行きたいと思います。
事件の影響はちらほらあちこちに出ているみたいです。

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旅戦の王女 第66話『盗賊を拾った日12』

久遠の村に近づくに連れ、物々しい雰囲気が漂ってきた。村自体は静かなのだが、殺気のような、非日常を思わせる空気が立ち込めている。
 ハルを先頭に、ファルル、トーン、コロナと続いていく。村の入り口まで来ると、ハルはシッと人差し指をさし、民家の裏へと隠れた。三人もそれに習い、息を潜める。
 「…まだうろうろしてますねぇい…」
 顔を少しだけ出し、ハルが苦々しく舌打ちをした。見ると通りを歩くいかにも盗賊風の男たちが一人、二人、三人…。どうやら見張り番らしく、辺りをきょろきょろ見渡しながら歩いている。手には幅の広い大きなナイフを持っていた。
 「見つかったら大変だな」
 ファルルが声を抑えて聞いてきた。ハルはこくりと頷き、盗賊たちの動きを観察する。
 荒っぽい犯行から、てっきり頭の方はそうでないかと思ったのだが、意外にもこの盗賊たちの動きは計算されていて隙がない。死角がないよう等間隔で回っており、どの通りを通っても恐らく見つかるだろう。誰か一人を攻撃しようと思っても、残り二人が異変に気付くように、盗賊同士のコンタクトも出来ているようだった。
 「…難しそうだね…」
 トーンが不安げに呟く。
 しばらく考えたハルは、
 「…こっちでさァ」
 そう言い、三人を連れ、民家の裏を通っていった。
 「…久遠の泉とは反対方向じゃないか?」
 コロナの問いかけに、ハルは黙って答える。
 しばらく歩くと比較的大きな建物の裏についた。ハルは再び息を潜め、そっと窓の中を伺い見る。コロナが横から覗くと、広い食堂のような場所に、おばあさんが椅子に座って項垂れていた。
 ハルは小さな小石を手に取り、窓をぱしりと叩いた。
 「おいっ」
 突然音を出したのでコロナが思わず静止の声を上げる。盗賊に見つかったらどうするんだ、と抗議すると、
 「…まぁ!」
 中にいたおばあさんが音に気付いて立ち上がり、こちらを見た。ハルが軽く手を振ると、おばあさんはひょこひょこと足を引きずるようにして近寄ってきた。窓が静かに開けられる。
 「まぁまぁ…あなた無事だったのねぇ…」
 おばあさんはハルの顔を見るなり、安堵したように胸を撫で下ろした。そして手招きをし、
 「…早くお入り。外は危険よ。…ほら」
 四人を中へと迎えいれた。


 中は食堂とカウンター、それから個室へ繋がる扉がいくつか。どうやらハルが泊まった宿屋とはここのことらしかった。おかみさんであるおばあさんも話しに聞いていた通り目が悪いらしく、ハルに対してやたらと顔を近づけ、確認するように頬をぺたぺた触っていた。
 「まぁまぁまぁ…よかった…本当に無事だったのねぇ」
 再び安堵のため息を漏らす。
 「あんまり無事とは言い難かったですがねぇい…おかみさんは?」
 「私も大丈夫よ」
 「その足は?」
 ハルがちらりと目線を足元にやると、おかみさんは首を振り、
 「…最初のときに少しひねっただけよ。なんともない」
 安心させるようにおかみさんはハルの手を握った。
 「いいのよ。あなたが無事ならそれでいいの」
 ひどく愛おしい優しい眼差しを向けられ、ハルは照れたように顔を背けた。
 「…しかしどうする?」
 コロナが誰にでもなく問いかけた。
 「ここから泉に向かう通りに出られないかな?」
 ファルルはそう答え、床を這うように移動し、通り側の窓をそうっと覗き込んだ。そしてひゃっと首をすくめ、その場にしゃがみ込む。
 「…い、いるいるっ!盗賊がすぐそこにっ」
 慌てた様子のファルルに続き、コロナも同じように窓の側まで這って移動し、窓を覗き込む。
 先ほど町の入り口で見かけた盗賊の他にもまだ仲間がいたらしく、数が更に増えていた。まるで自分たちの庭であるかのように、大きな顔して通りを歩いている。
 「参ったな…」
 苦々しく呟く。その様子を見ていたトーンはうぅんと思案するように唸った。
 「…さっきみたいに家の裏側を通りながら、泉まで行けないかな?」
 「それは難しいわねぇ…」
 トーンの提案に、おかみさんが口を挟む。
 「どうして?」
 「泉はこの村の中心にあるのよ。…泉を丸く囲むように村が出来たからねぇ…」
 そう言っておかみさんは旅行者用の地図を取り出し、広げて見せた。入ったときには気付かなかったが、久遠の村は丸いドーナツ型をしており、その中心部分に久遠の泉があった。
 「久遠の泉の周りは広場になっていて、普段は音楽祭や市場が開かれたりするのよ」
 ―ぜひその音楽祭や市場が開かれているときに来たかった。というのは愚考だった。つまりそれだけのイベントが開けるくらい、久遠の泉の周りは広く開けているのだ。
 「…隠れて潜入、って訳にゃあ行かねぇってことですねぇい…」
 ハルは地図を見ながら眉をひそめた。


   * * *


さー、どう進入しようかな…

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旅戦の王女 第65話『盗賊を拾った日11』

 長い睫毛が頬に陰る。
 紙タバコの紫煙がゆるりと空へ立ち上る。
 「………んー…」
 ガシガシとハルは目を伏せたまま頭を掻いた。それからタバコを口から離し、コロナたちとは反対の方向を向いてからふぅーっと長く息を吐いた。白い吐息が細く風にたなびく。
 たなびいた白い吐息が風に霧散して消えたあと、
 「…俺は保護者には向いてないと思うんですがねぇい…」
 困ったように呟いた。
 その呟きに、ファルルとトーンは肩を落とす。
 「…ピンチになったら、自分の身ぐらいしっかり守るんですぜい?」
 「え!?」
 二人はぱっとハルの顔を見上げた。コロナも思わず見る。
 金と赤のオッドアイが苦笑したように細められる。―困った子たちですぜぃ、まったく…。と、ハルは愛嬌のこもった響きで呟いた。
 「やった!ファルルやった!」
 「やったな、トーン!やったやった!」
 すでに討ち取ったように手を叩きあって喜ぶトーンとファルル。コロナはハルの傍に歩み寄った。
 「…すまない」
 調子を抑えて頭を下げる。
 「いやいや、いいんでさァ」
 新しいタバコを口にくわえたハルが片手で軽くコロナの頭をぽんぽん叩く。(びっくりした…)
 「むしろ謝るのはこっちの方でさァ。怪我させちゃあ悪いですし、それに俺は病み上がりの丸腰ですからねぇい…」
 足手まといになっちゃあ悪いですし…。―ハルは再びジッと火を起こし、タバコを吹かし始めた。
 「………」
 コロナは撫でられた頭を自分の手でなぞり、くすぐったいような歯がゆいような気分に唇を歪める。
 祖父である大賢者には撫でられた覚えがあるが、数える程度だ。最初に褒められたのは魔法書の一部を暗唱できたとき。そうしろと言われた覚えはないが、本を読んでいるうちに自然に暗唱できていた。それを聞いた大賢者は目を細め、優しそうな声色で、
 「お前はやはり天性の智がある。お前のような賢者が生まれて嬉しいことじゃ」
 そう言って頭を撫でてくれた。そのときにはこの大賢者を祖父として持つことができて嬉しいと、心から思った。
 そのときから大賢者はすでに老人で、撫でてくれた手はしわしわの骨の浮いた手だった。ハルのように細くしなやかなそれとは正反対の代物である。
 しかし、
 (…なんか…)
 歯がゆい想いが胸でぽわと熱を持ったように思えた。
 ―その昔、まるで同じことがあったような…。
 疑問は答えを待つ前に打ち消した。
 そんなはずがある訳がない。
 俺は最初から『家族は大賢者だけ』だったのだから。

 「さぁ、行くか!」
 ファルルが威勢のいい声を上げた。トーンが右手を振り上げ、それに続く。
 「その車はそこに置いておいた方がいいですぜぃ?そんな高級なもので行ったら盗賊たちに「盗んでください」って言っているようなもんでさァ」
 ハルの忠告を素直に聞き入れ、車は川原に置き、目立たないように草葉に隠し、更に存在が気づかれないように魔法をかけた。
 武器と回復できる薬草、それと食料や消耗品など、必要最低限の荷物を持ち、四人は久遠の泉へと向かった。



* * *



凄く久々の更新ですが、思ったよりも筆がすいすい進んだ。
ようやく泉に向かいますよ!

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