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祭のものぐさもったり手帳

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旅戦の王女 第17話『ある賢者への訪問者17』

 城下を抜けるとなだらかな平原が延々続いている。大陸一の大平原であるこの場所は、山も川もなく、ひたすら芝のような背の低い草が絨毯のように生えている。空け放った窓から乾いた風が吹いてきて、頬をなでて後ろへと流れていく。一年を通してあまり寒暖差のない地域だが、肌に触れる風はまだ少し冷たい。季節は冬のようだ。
 「わぁー!広ーっい!」
 隣から絶えず聞こえてくる底抜けに明るい声に、コロナはがっくりと肩を落とした。ちゃっかりと助手席を陣取っているミクロ王女は、窓から身を乗り出して(危ないな…)手をパタパタと出してはしゃいだり、時折目を細めて気持ちよさそうに風を受けたりしている。
 その様子を横目で伺いながら、コロナはどうにか打開策を考えていた。しかし少しでも進路を変更しようものならば、すぐにでも飛びかってきそうで怖い。上半身は窓から乗り出しているくせに、下半身だけはしっかりとこっちを向いている。
 行動力がある上に抜かりがない…変なところですっぱり抜け落ちてはいるけど…。
 「あのねー?私、ちゃんと出かけてくるって許可とっといたんだよー?」
 「ふぅん…」
 外を眺めたままミクロが無邪気にそう言うので、コロナは生返事をする。あまりにもさらっと日常のワンシーンのように言うものだから、思わずそのまま流しそうになってしまったが、
 「え?」
 意味を理解してコロナは一種の期待を持ってミクロを見た。え?許可取ったって…あの王様から?
 混乱しているコロナをミクロがちらりと、どこか勝利を確信したようににやりと笑い、
 「ちゃんと手紙置いてきたから大丈夫だよ!」
 胸を張って答えた。
 「………」
 それは許可を取ったといわない。と、訂正したいが、もはやそんな元気はコロナにない。車を走らせて早一時間。まさかこんなに疲れるとは…。
 「…はぁ…」
 ため息一つついて、今後のことを整理する。
 とりあえず近衛兵の訓練施設に行ったら、『大賢者』様に連絡を取って、そうしたらこの困った王女を迎えにきてもらおう。今から自力で戻るのは、どうも無理そうだ。

 「ねー?コロナー」
 またも外を向いたまま、ミクロが話しかけてきた。
 「…なんですか?」
 散々疲れているので、思わずむすっとした口調で返す。しかし元々無愛想なコロナだけにミクロも対して気分を害した様子もなく、
 「あのさぁ、やっぱり、王女がこうして旅に出ていたら変かなぁ?」
 問いかけてきた。あまりにも当たり前すぎてもはや答える気にもなれないのだが、思ったよりも声色は真剣なので、
 「…変…ですね」
 ほとんど独り言のように答えた。変とか変じゃないとかそういう次元の問題でもない気がするが、変であることに代わりはない。
 「うーん…そうか?…むー…」
 コロナの答えを聞いたミクロは何か考えるようにうなり、明後日の方向を見つめ、
 「…王女だってバレなければ、変じゃないかな?」
 そう結論付けた。
 「…は?」
 ミクロが何を言いたいのかわからず、コロナは眉間にシワを寄せて益々渋い顔になる。その反対に、自分なりに納得のいく答えが出たであろうミクロは妙にすっきりとした笑顔でこちらを振り返った。
 「ねぇ、私が王女だって、みんなにはナイショだよ?」
 コロナにそっと耳打ちをし、それから人差し指を軽く唇に当てて悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
 「…ナイショといわれても…」
 黙っておいたからって済む問題なのだろうか?間違いなくこの少女は一国の王女なのだし(あまりそうは見えないけれども)
 「…名前を呼ばれれば、すぐにバレてしまうのでは…?」
 素直な考えを言った。
 「…んー…やっぱり?」
 どうやらミクロもそこが気になっていたようで、神妙な面持ちでかなり真剣に考え込む。そしてふと、何か思い出したように両手をぽんっと叩き、
 「コロナが名前つけてよ!」
 「は!?」
 そう笑顔で言った。
 「聞いたことあるんだ。賢者って、名前考えたりするのも仕事のうちなんでしょ?私とミシロの名前も、大賢者がつけたって聞いたもん」
 やたら胸張って答えるので、コロナはたじたじと怖気づきながら「えぇ…まぁ…」などとあいまいな返事をする。
 確かに悩み相談を承っている賢者の元には「子供の名前を考えてほしい」というのも多いのだが、コロナはそういうことには疎い人間なので、大体適当に縁起のよさそうな名前をピックアップしてぽいと提示するだけなのだ。そんな適当な仕事加減なだけに自信はない。
 「やっぱりもう一つ名前があった方がなにかと便利だと思うんだよ。ちょっとの間だけでいいからさ、簡単でかっこよくて可愛くていい感じの名前ないかな?」
 さりげなく手厳しい注文をしてくるミクロに、コロナはうぅーとうなり声を上げてハンドルに軽く突っ伏す。横からは容赦ない期待のまなざし。大きな灰色がかった黒い瞳が、きらきらとコロナを見つめている。
 どうしてこの王女はいつも自分をここまで頼るのだろうか?そんなに凄いことをしたつもりもないのに、こんな風に頼られたら、応えるしかないじゃないか…。

 「……トーン…」

 「え?」
 ミクロは不思議そうに声を出した。
 「…トーンという名前はいかがでしょうか?」
 「とーん…?」
 きょとんとしているミクロに、コロナは続ける。
 「あまりここの地域では見ない名前ですし、それにこの名前だと性別も特定されないので、偽名としてはちょうどいいかと…」
 コロナの説明を咀嚼しながら、ミクロは口の中で何度かその名前を呟く。
 「…私は、……僕は、トーン…」
 声に出してみると、思った以上にしっくりと馴染んだことに驚いた。「私」が「僕」に、「ミクロ」が「トーン」へと変わったのに、なんだか前の自分より自分らしい。
 「…じゃあ、僕はトーンだね!」
 胸を張って、最上級ににっこりと笑顔で新しい名前を名乗った。どうやら気に入ってもらえたようで、コロナも嬉しくて、少しくすぐったいような気分になる。
 「よーっし!それじゃあ、レッツゴー!ミシロを助けるんだー!」
 車から転げ落ちそうになるほど元気一杯の掛け声を、コロナは「はいはい」と苦笑して流す。アクセルペダルを少し踏み込めば、スピードが上がって車はすべるように草原を走る。まだ少肌寒い風は、髪や服を乱暴にかき乱しながら速く早く後ろへと流れていく。空は青く、見渡す限り草原が広がっている。先は、―見えない。
 「この先に何があるのかな?」
 「わからないからこれから見に行くんです」

 眠りについた白の王女を救うため、一人の賢者とお忍びの王女様の旅はこうして始まった。


     * * *


な、長い…;しかも途中でデータ飛んだのでやり直し…;
とりあえずこれで『ある賢者の?』シリーズは終わりです。
次回から新シリーズ☆(早く書けや)  

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旅戦の王女 第16話『ある賢者への訪問者16』

 一方、見つかってしまったミクロ王女はと言えば、別に驚く訳でも隠れる訳でもなく、
 「見つかっちゃったぁ」
 などとのんきににぱーっと笑っている。助手席から身を乗り出した状態でコロナを端へと押しやり、アクセルをこれでもかと踏みつけ、まるで当たり前のようにハンドルを操作している。
 ハンドルを握る手には真新しい皮のグローブ(しかもご丁寧に肘まで覆うタイプの)が装備されている。いつも額につけていた黒い宝石は置いてきてしまったのか、飾り気のない黒くて短い猫っ毛。しかし元々破天荒な(失敬。…快活な…)ミクロの性格と妙にマッチしている。動きやすい今の格好でさえ、ずっと何年も前からその格好でいたかのように、しっくりと馴染んでいる。
 それにしてもなんでこの王女はいつも思いがけないところで、思いかげない現れ方をするのだろうか。
 「ミクロ王女…どうしてここに…?」
 「コロナが荷物取りに行ってる間にこっそりと座席に忍び込んでー…」
 「そうじゃなくて!」
 見当違いなことを答えようとしているミクロを一喝し、
 「…どのような方法で車に乗って来たのかということを聞いているのではなくて、どのような考えがあってこの車に乗っているのかということを聞いている訳で…」
 言葉数を増やしてよりわかりやすく詳しく説明した。つもりだった。
 しかしどうもコロナの説明は詳しくなるどころか、かえって難しくなってしまうらしい。その証拠に、聞いていたミクロは
 「…えー…?」
 と間の抜けた、わかっているのかいないのかよくわからない、不満とも疑問とも取れる声を出した。いつもの大きな瞳を半眼にし、コロナに明確な答えを求めるようにじぃーっと見つめる。そんな顔で見つめられれば、誰だって居心地が悪くなるものである。コロナもいたたまれなくってふぃっと視線を窓の外へと逸らし、
 「…っうわあぁーっ!!!?」
 叫んだ。
 「え!?何?」
 いきなり叫ばれて思考が追いつかず、ミクロは目をぱちくりとさせてコロナを見る。コロナはそんなミクロの手から反射的にハンドルをひったくり、大きく左へと回した。車体が大きく傾き、左へと曲がる。キキキィというタイヤがこすれる音がけたたましく鳴り響き、右のフロントガラスぎりぎりのところを、一本の木がすり抜けていった。
 ―あと少し気づくのが遅かったら、確実にあの木と激突していた…。
 そのときのことを考えてゾッとする。ミクロの的外れな運転のせいで大きく道から外れ、林に突っ込む直前だったので(前を見ていなかった俺も悪かったけど…)ハンドルを取り返したことをいい機会に、再び舗装された道へと移動した。
 未だに状況を飲み込めていないミクロは、ぽかんと目を点にさせ、手をハンドルを持っていたときの形のまま固定している。…相変わらずのんきだな、この王女…。
 「…とにかく、ここにいられたら困ります。…城へと送りますので…」
 ふぅとため息混じりにそう呟き、ハンドルを再び回した。理由を話してくれそうにないし、もう一人の王女までいなくなったとなればそれこそ一大事だろう。この黒の王女には城で大人しくしてもらわないと…。
 「…旅に出るんじゃないの?」
 「出ません」
 ミクロの不思議そうな質問に、すぱっと間髪いれずに答える。ミクロはん?としばらく考えたあと、
 「城に帰るの?」
 「えぇ」
 またそんな当たり前のことを聞いてきたので、これもすぱっと答えた。
 「本当に?」
 「本当に」
 「どうしても?」
 「どうしても」
 「絶対?」
 「絶対」
 まるでオウム返しのような質疑応答を何回か繰り返し、
 「…っだめえぇぇーっ!!!」
 今度はミクロ王女が叫んだ。
 「え!?」
 しかも絶叫に怯んだコロナは、一瞬ではあったがハンドルを握る手を緩ませてしまい、そこにミクロの腕が勢いよく伸びて、
 「お城に帰ったらだめええぇっ!!!」
 これでもかと回しだした。
 車体は再び大きく傾き、ぐねぐねとミクロの腕に合わせて不規則に蛇行する。
 「うわっ?うわっ!?」
 体を左右に揺さぶられ、三半規管がおかしくなって船酔いをしたような感覚に陥る。ハンドルを奪い返そうとコロナも負けじと腕を伸ばすのだが、ハンドルに手を触れようと思った瞬間に車体がガコンと大きく反対へと傾き、あっという間に平衡感覚と距離感を失ってしまう。
 「み、ミクロ王女っ!」
 ぐらぐらする頭で無我夢中に叫ぶ。不規則なタイヤの音と、やかましいエンジン音の合間から、
 「お城に帰らないって約束したら、ハンドル離してあげるっ!」
 意固地になっている声がかすかに聴覚へ届いた。
 「っわかった!帰らないから、離せっ!」
 散々体も頭も揺さぶられて、賢者といえども冷静に物事を考えることが出来ず、ほとんど脊髄反射でコロナは叫んだ。
 するとその叫びを合図にしたように、車は蛇行するのを止め、だいぶ出ていたであろうスピードも、緩やかにではあるが、次第に収まってきた。
 とりあえず危機的状況を回避できたことを肌で感じ、コロナははぁと胸をなでおろす。その隣では、ミクロがしてやったりと言わんばかりの悪戯っぽい笑みを浮かべていた。


* * *


お久しぶりですー;
色々あって遅れてしまいましたが…とりあえずミクロも乗車です。
もう少し『ある賢者への訪問者』にお付き合いください…;(まだ続くのか/えぇ、続きますとも) 

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旅戦の王女 第15話『ある賢者への訪問者15』

 何か物音がした気がして、コロナは振り返った。二人がけの後部座席には旅行カバンは一つ、ちょこんと置いてあるだけで、当たり前だが誰もいない。
 ふぅと自分の神経過敏さを自嘲するようにため息をつき、また前に向き直った。ハンドルを握り締め、キーを回す。ぶるるっと車体が一度大きく振動し、それからエンジンを温めるための小刻みな振動が体を揺らす。エンジンがそろそろ温まったかと思い、アクセルペダルを踏もうとしたとき、
 「…あれ?」
 何か違和感を覚え、首をひねった。
 何か忘れ物をしている訳でもないし、さっきの物音も気のせいで、後ろには旅行カバンがあるだけで誰もいなくて、誰もいなくて、カバン…。

 (―俺、旅行カバンなんて置いたっけ?)

 気づいた途端、背中をぞくぞくとした形のない恐怖が甲殻虫のように這い上がってきた。コロナはその恐怖と不快感にたまらず再び後ろを振り返った。
 確かに後部座席にはドラム型をした小型の旅行カバンが置いてあった。ためしに目をこすってみたが、やっぱりそこにあった。
 コロナの荷物は肩掛けカバン一つと、本三冊だけ。本は三冊とも助手席に置いてあるし、肩掛けカバンはトランクに詰め込んでしまった。―じゃあこのカバンは誰のだ?
 きょろきょろと首を回して辺りをくまなく見渡す。神経を集中させてみると、確かにコロナ以外の誰かがこの車内にいる。怖いものは怖いが、けれども確かめなければ仕方がない。コロナは前を向き直り、両手を膝の上で硬く握り締め、すぅと口の中だけで小さく深呼吸をする。そして見えない影に向かって、
 「誰だっ!」
 ―ごんっ!
 叫んだ途端、視界がぶれ、間髪いれずに自分の頭から妙に鈍い音が響いた。フラッシュでもたかれたように目の前が真っ白になり、耳の奥でわんわんと音叉のような耳鳴りが響いている。耳鳴りがうるさいと顔をしかめたとき、自分はサイドガラスに側頭部を打ち付けたのだ、と、ようやく理解できた。
 なんで打ち付けたのかわからないが、とにかく体を起こそうとハンドルに手を伸ばした。ハンドルを握ろうと手に力を入れたとき、
 「…!?」
 自分の手はハンドルではなく、別の誰かの手を握った。
 想定外のことにコロナは驚き、反射的に顔を上げ、
 ―どんっ!
 「うわっ!?」
 今度は後頭部を座席に思い切りぶつけた。顔を上げた瞬間に車体が急発進し、慣性の法則によってコロナの頭は後ろへと引っ張られたのだ。
 たった数秒の間に頭をがんごんと打ちつけて(一つ一つの痛みは対して痛くなかったのだが、なんだか精神的に痛くて…)コロナは後頭部を抑えて運転席で一時、悶絶した。と、ちょうど顔をうつむかせたことで、足元が見えた。自分の革靴を履いた足と、ブーツを履いてアクセルペダルをこれでもかと踏みつけている足と…。
 「………」
 さっきみたいにいきなり頭をあげて、再び打ち付けることを恐れたコロナは、ゆっくりと足から視線を上へ上へと動かした。
 ブーツを履いた足、黒いタイツ、それから濃い青灰色のオーバーオール。上は短いマントのような、ケープのようなものを巻きつけ、そして、
 「…あ」
 その主と目があった。
 決して美人とは言えないが、血色のよくふっくらとした肌。瑞々しく生気にあふれた顔立ち。そして双眸で光る大きな灰色のがかった黒く澄み切った瞳。
 もう、間違える余地なんてなかった。
 「…みっ…!?」
 喉の奥で引っかかって、なんだか突っかかったような、引き連れたような声が出る。ごくりと唾を飲み込んで突っかかりを強引に押し込み、
 「みっ…ミクロ王女ーっ!!?」
 叫んだ。柄にもなく。


* * *


結局終わらなかったしー;
ということで、もう少しだけ『ある賢者への?』にお付き合いを;
(もっと計画性を持てよ)

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旅戦の王女 第14話『ある賢者への訪問者14』

 ―何でこんなことになってしまったんだ。
 コロナは胸中で疑問を嘆きつつも、答えを見出せずにふぅとため息をつく。
 とりあえず、化石燃料で動く小型の四輪駆動車を城下の礼拝堂に横付けし、トランクによいせと荷物を詰め込んだ。中身は衣類、携帯食料、日用品。普段から生活感が少ないだけに、考えうるすべての必要なものを詰め込んでも、肩掛けカバン一つでこと足りてしまった。逆に多くても困るけど。
 「…あぁ、そうだ…」
 カバンをトランクにしまってから、ふと、もっと大事なものを思い出して踵を返す。一旦自室に戻り、そしてすぐに戻ってきた。
 戻ってきたコロナの腕の中には、分厚いハードカバーの本が三冊、やたら重厚に鎮座していた。この三冊だけで、さっき詰め込んだ荷物の質量をゆうに超えてしまうほど、ともかく分厚くて重い。
 その分厚い本を荷物と一緒にトランクに詰めようかと考えて、すぐに取りやめた。
 本を抱えたまま、二の腕や肩を使って器用にトランクをばたんと閉じる。それから車体を回り、前のハンドルがない席。―つまり助手席に、三冊の本をどさりと割りとぞんざいに置いた。これなら、運転席からいつでも取り出すことが出来る。
 (…本当はこれを使わずに済めば一番いいのだけれど…)
 コロナは心の中でそう願った。無理な願いだとはわかっているけれど。
 この置いた本はすべて魔法書である。
 大体の魔法使いや賢者は、杖や宝石、ときには使い魔の動物などを介して魔法を行う。何かを介した方が魔法の発動がスムーズだったり、もしくは余計な呪文を唱える必要ななかったりと、負担が少なくなるのだ。
 コロナの場合は、その介するものが魔法書だった。
 古代の偉人たちによって書かれ、編集されたこの分厚い本は、それ自体に強い魔力を持っている。もちろん本がなくても魔法は使えるのだが、どうしても威力は劣ってしまう。本当に本気で使いたいときには、魔法書はどうしても必要になってくる。
 荷物をすべて積み終え、コロナはいつもの白く、長い袖の賢者服のまま、運転席へと乗り込んだ。目の前の黒いハンドルを握り締めると、少しずつ運転の感覚が戻ってくる。よし。しばらく運転していなくて心配だったが、どうやら大丈夫そうだ。

 「城下を抜け、車で三時間ほど行ったところに、近衛兵の訓練施設がある」
 昨日、コロナが旅に出ることが決まった日。
 王は一人で旅に出る少年を気遣い(賢者と言ったって、所詮11歳の子供だ。そりゃあ、あんまり子供らしくないけど…)ある提案をしてくれた。
 「その訓練施設に話を通しておこう。そこへ一度立ち寄り、誰でも、何人でも、気に入った兵士がいれば旅の共として連れて行ってくれてかまわない」
 いくら魔法が使えるといえども、旅の途中ではどうしても肉体に頼る事態があることは容易に想像がつく。修行中とはいえ、訓練施設で腕を磨いている兵士が一人二人ついてきてくれるのならば心強い。
 更に王は旅費と、それにコロナが運転できるとわかると、こうして四輪の車まで用意してくれた(まだ車自体が出来て間もないので、運転の仕方さえわかれば誰でも運転することが許されている)
 「…うーん…」
 いたれりつくせりの対応を嬉しく思うものの、
 「…これは…手ぶらでは帰れない…な…」
 これだけ待遇がいいと、その優しい言葉や行為の裏にある『絶対ミシロ王女を助けろ』という目には見えないプレッシャーが容赦なくのしかかってくる。
 「…あー…」
 コロナは軽く気分が滅入り、ハンドルに額を押し付けてしばらく黙って目を閉じた。一人で物思いに耽るのは好きだが、今は思考をシャットアウトしておかないと、余計なプレッシャーまで感じて旅に行く前から不安で押しつぶされそうになる。
 「…出来るかな…俺に…」
 大賢者の孫、天性の素質。優遇された環境の中に生まれてきて、今まで皆から天才天才と敬われ、そして自分自身もその期待に(そこそこ)答えていたつもりだった。褒められると急に萎縮してしまうが、自分の力は過大評価もしていなければ、過小評価だってしていない。少なくとも並みの賢者としての力と知識はあるのだと自負している。
 ただこうして目標を突きつけられると、急激に不安になってきた。
 ミシロ王女を救えるのか?世界の均衡を崩す者を捕らえることが出来るのか?いや、それ以前に、俺は生きて帰ってこられるのだろうか?
 「………」
 思考をシャットアウトしたつもりだったのに、気がつけば色々と考え出してしまっている。あー、もう。俺のバカ。口の中で、絶対誰にも聞こえない音量で悪態をついた。
 ―ごそっ…。
 「…ん?」


* * *


旅支度編。
次でいよいよ『ある賢者への?』シリーズは終わり…
と、願いたい(こら)

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旅戦の王女 第13話『ある賢者への訪問者13』

 疑問に思ったのはコロナだけではなかった。
 王も后も「誰だこいつ」みたいに目をぱちくりとさせる。ただミクロだけはコロナのことを知っていたので、「嘘ーなんでここにコロナがいるのー?」と言いたげな驚いた顔をしていた。というか俺がここにいることを、今さっき気づいたみたいだ。…薄情者。
 「その者は…誰だ?」
 「孫のコロナでございます」
 王の怪訝そうな問いかけに、さらっと答え、
 「わしはミシロ王女の様子を診るため、ここに残らねばなりませぬ。それにこの老体ゆえ、遠出をするにも力不足。しかしコロナはまだ若いので、いくらコキ使っても問題はありませぬ」
 ぺらぺらと御託を並べ始めた。何言っているんだ、このもうろくじじいは。
 なんて頭の中で悪態をついた瞬間、頭に乗せられた手から五本の指へと力が渡り、ぎりぎりとコロナの頭締め上げていく。どこが力不足だ!どこが!
 頭を締め上げられるという実はかなり痛いお仕置きを受け、苦悶の表情を浮かべていたコロナだったが、最初から無愛想な顔だっただけに周りには一切気づかれることなく(寂しい…)話は続いた。
 「あまり大きな部隊では国中に知られて大騒ぎになるかもしれませぬ。もしかしたらその世界の均衡を崩している者にも勘付かれ、逃げられてしまう可能性もございます」
 しかし大賢者の説明を聞いてもなお、王は何がなんだかわからないと言った様子で再度問いかけた。
 「しかしその者はまだ子供ではないか。そんな子供を使いに出すくらいなら、こちらで戦士を募り、すぐにでも向かわせるが…」
 そうだ!俺は子供なんだぞ!―と、胸中でわめいてみるが、
 「こやつはまだまだ子供ですが、そこらの賢者にも負けず劣らず…いえ、すでに並みの賢者よりも秀でております。子供だからと言って甘く見ない方がよろしいでしょう。コロナは天才ですから」
 (ぐはっ!)
 普段の祖父からは絶対聞けない、かなり有り得ない褒め殺しを食らってしまい、胸中で吐血したようなうめき声が出た。
 大賢者の言葉に、王や妃が訝しげにコロナをじろじろと見る。視線を浴びて、コロナは居心地が悪くなって視線を下へずらしてしまった。が、頭に乗せられた手がそれを許さず、ぐいっとまた視線を元に戻された。
 「国王陛下、相手は世界の均衡を崩す者。…すなわち、魔法や術を得意とする者の仕業と考えるべきです。その者に対し、力自慢の戦士や、もしくは近代兵器が役に立つはずもございませぬ」
 大賢者の言うことは正論だった。
 物理的な攻撃は魔法には通用しない。科学が発達して魔法があまり重宝されなくなってきた今も、こうして大賢者のように国の中枢で魔法を扱うものがのさばっていられるのは、そのせいである。人間の未知の力を使うために厳しい修行を強いられるが、それでも修行を終えて力を身につけた暁には、物理的な攻撃を跳ね返すほどの強力な魔力が得られるのだ。
 「目には目を。歯には歯を。魔法には魔法が有効でありましょう。魔法に関しては、コロナは一級です」
 もうやめてくれ…と。切実に今すぐにでも言いたい。どうしてここまで俺を推薦するのか、きっとこうして褒めることでコロナがげんなりとしている様子を見て楽しんでいる。いや、そうに違いないぞ、このじじいは。という一種の確信まで持ち始めていた頃。
 「…本当に任せていいんだな?」
 ぼそりとした呟き声が降ってきた。
 「はい」
 王の言葉に、大賢者は迷いなく答える。
 しばしの沈黙が流れ、そして、
 「よし…賢者コロナ!世界の均衡を崩しているという謀反者を見つけ、直ちに捕まえてくるのだ!」
 名指しで、そう言われた。もう、間違えようがないくらいはっきりと。
 「えっ!?」
 コロナは思わずひっくり返った声を出し、王、妃、ミクロ、大賢者の顔を順に見回した。
 王は子供に頼むことをひどく悔やんでいるらしいが、それでもワラにでもすがりたいようで必死な表情。そして妃はこんな子供に行かせるなんて…とはらはらとした不安そうな表情。ミクロはまだことの状況を飲み込めていないのかなんなのか、何か考え込んでいる。そして大賢者は、
 「王女を頼むぞ」
 そう一言だけいい、それまでぎりぎり締め上げていた手を一旦外し、最初と同じようにぽんっと軽くコロナの頭に乗せた。
 「………」
 ここが玉座の間じゃなかったら、絶対に叫んでいたと思う。が、さすがに王を前にして叫ぶこともわめくことも出来ず、呆然と、口を半分だけぽっかりとあけて黙っていた。

 ―とにかくこうして、コロナの旅が(強引に)決定した。


* * *


ようやく旅に出るきっかけが出来た?;
うへー;ここまで長かったー;

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旅戦の王女 第12話『ある賢者への訪問者12』

 「…率直に聞こう…―ミシロを目覚めさせる方法は見つかったか?」
 こちらが挨拶を述べる間もなく、王が問いかけてきた。
 王だけに、表情は普段どおり毅然としているのだが、声にはいつになく焦りが感じられる。それによく見れば、その毅然とした表情すら強張り、今にも立ち上がって問い詰めたい衝動を抑えているようだった。
 「ミシロはまだ眠りについたままです。どういうことですか?」
 横から妃も問いかけた。こちらは声が震えていて、何かの弾みですぐにでも泣き出してしまいそうになっている。
 「双子のミクロも、朝からミシロのことを心配してずっと部屋にこもりっきりなのだぞ」
 王の口から出た何気ない一言に、王女ミクロの肩がびくっと震えた。
 ―バレなかったんだ…脱走のこと。
 「あの元気なミシロに一体何があったというのだ?…病気か?…それとも何かの魔法によるものなのか?大賢者であるお前すら手を焼いているというのはどういう事態なんだ?」
 王は声の調子こそ抑えているものの、焦りのあまりに早口で言葉を巻く仕立て上げている。辛いのに王という立場上、取り乱すことが出来ずにいる姿は、なんだか見ていて痛々しい。
 しかしそこまで心配をしている王に対し、何かしら安心させるような言葉でもかけるのかと思いきや、大賢者は表情を変えずにややうつむき加減で話を聞いている。
 「…大賢者様…」
 心配になってついコロナも小声で隣で膝を折っている大賢者に話しかける。けれども険しい横顔は、いつものように飄々ともしなければ厳格にも答えようとしなかった。
 流れる嫌な静寂。
 ぴんと空気が弦を張り詰めたようになり、次の一言を出すのがやたら苦しい。
 どれくらい静寂がこの場を支配していただろうか。
 「…王女は…」
 張り詰めた空気の中に、白いヒゲによってくぐもった、しかし割合よく通る老人の声が聞こえ、
 「死にます」
 はっきりと、そう言った。 

 ―がたっ!
 「どういうことだっ!」
 ついに我慢しきれなくなった王は、勢いに任せて玉座をぞんざいに揺らして立ち上がり、大賢者に向かって声を荒げた。
 「ミシロが…っ!あの元気なミシロが、死んでしまうというのか!?」
 王の言葉に、大賢者は否定も肯定もしなかった。その様子を見た妃は困惑したように涙ぐんで口元を抑えた。双子の片割れであるミクロは、顔面を蒼白させ、あの大きな灰色がかった黒い瞳を見開き、わなわなと震えている。
 コロナも、突然の死の宣告を信じることが出来ず、隣にいる大賢者の横顔を呆然と見つめていた。
 そんな絶望的な視線を一身に浴びている大賢者は、いつも通りなのだが、どこか押し殺したような低い口調で言葉を繋げていく。
 「ミシロ王女、ミクロ王女はただの双子ではありませぬ。白と黒、相反するものの象徴。…それは光と闇、正義と悪、様々なものを写した、いわば鏡のようなものでございます。二人が元気でいられたとき、それは世界の均衡が保たれていたということ」
 相反する双子。世界の両極。天秤の左右。
 双子の王女、ミシロとミクロが生まれたそのときから、賢者たちは『神によるなにかしらの啓示』と考え、今日まで見守ってきた。
 「ミシロ王女が深い眠りについた今、世界の均衡が崩れたと考られます。もちろんまだ病気や魔法によるものだという考えも捨て切れませんが…」
 「それとミシロの死がどう関係あるというのだっ!?」
 それまで大人しく説明を聞いていた王は再び声を荒げた。けれどもひるむどころか逆に押し返すように大賢者は話を続ける。
 「このまま眠り続ければ、衰弱して死んでしまうことは目に見えて明らかでございます。そうなる前にも早急に原因を取り除かねばなりませぬ」
 厳しい大賢者の口調に、王がぐっとたじろぐ。
 それをきっかけにして、再び場は静寂に支配された。


 「…どうしたらいい…?」
 口火を切ったのは、王だった。
 玉座に深く座り込み、額に手をやり、懺悔でもするような小さな呟き声だった。
 「原因がどこにあるかはわかりません。しかし何の前触れもなく眠りについてしまったことから、誰かしらが力を働かせて均衡を人為的に崩しているものと思われます」
 大賢者の冷静な答えに、「うむ…」と小さく王は相槌を打った。
 「その人物を突き止め、止めに…場合によって排除しにいかねばなりません」
 今度は王は相槌を打たなかった。大賢者の言いたいこともわかる。しかし、この広い世界の中で、どうやって、誰が見つけるというのだ。ここで大々的に兵を動かせば国だけでなくて周りが大騒ぎしてしまうし、だからと言ってそんな任務につく奴なんてどこにも…
 「こやつに行かせてはくれませぬか?」
 いきなりぽんと頭に手を置かれ、「へ?」とマヌケな声が出た。―え?俺?


* * *


結局また説明だけで終わってしまった;
どうしてこうもだらだら長くなってしまうのやら…; 

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旅戦の王女 第11話『ある賢者への訪問者11』

 今、変なこと言わなかったか?この人…。
 「あの、大賢者…いえ、お爺様…?」
 先ほど少し、というかかなり聞き過ごせない言葉が耳に引っかかり、その意味を聞こうと声をかけた。かなり心もとない声で聞いたのだが、幸いにも聞こえたらしく、大賢者は何だ?と言いたげにコロナを肩越しに見やった。
 「…あの、さっきの…」
 「大賢者様!」
 旅に行かせても大丈夫だということはどういうことですか?
 というコロナの切実な質問は、いきなり横から投げられた言葉によって喉の奥へと強制的に押し戻された。タイミング悪っ。
 「ん?」
 大賢者の注意もコロナからその声の主に移り、首をひねって廊下の反対側を見た。
 ちょうど曲がり角のところで、向こうからガシャガシャと割と派手な音を立てながら、近衛兵と思しき鎧をまとった青年がやってきた。少し慌てたように、やや駆け足で。青年は片手には槍を持ち、胸には国の象徴である大きな翼を持った鳥のレリーフが記されている。
 近衛兵の青年は大賢者の前で敬礼をびしりと決め、
 「国王陛下がお呼びでございます!すぐに玉座の間へと移動されてください!」
 ハキハキとした口調でこれまたびしりと用件を言い切った。
 「…うむ、わしもこれから行くつもりじゃ」
 近衛兵の言葉に、大賢者は頷きながら答えた。顔はすでに賢者の長で、この国の重役である『大賢者様』の顔になっている。普通なら年寄り特有のくたびれた感じが出るものだが、このときばかりの祖父からは威厳ばかりで、少しもくたびれて廃れた感じは見受けられない。
 「わかりました!それでは国王陛下にそう伝えて参ります!」
 そう最後までハキハキとした口調で言い、去り際にまたびしりと敬礼を決めた。まるで機械仕掛けのようにキビキビとした動きで元来た廊下を戻っていった。ガシャガシャとした鎧の音が小さくなっていき、
 「…早く行こう。国王陛下が待っておられる」
 そう言い残して、大賢者は踵を返してスタスタと廊下を歩いていった。
 「あ」
 またもいきなりの行動にコロナは反応が遅れて、置いていかれないよう、再び駆け足でその後ろを追いかけていく。
 王が待っていると聞いたせいか、先ほどよりもだいぶ早いペースで歩いている。大賢者の背中をなんとなく見上げながら、コロナも同じように少し早いペースでついていった。
 もう質問は出来なさそうだった。


 やがて、二人の前に他とは圧倒的に違う巨大な扉が立ちふさがった。
 幅はコロナが両手を伸ばしても三人はゆうに通れるほどで、高さもいつも通っているドアより三倍はあって、なんだか入る前から圧倒されてしまう。
 ここがいわゆる、玉座の間である。
 大賢者がやってくると、扉の前に槍を持って構えていた近衛兵二人が(さっきコロナたちに伝言してきた人とは別の人のようだ)左右から取っ手をつかみ、懇親の力をこめて扉を開けた。
 ―ギギギ…
 と低いうなり声のような音が聞こえ、視界が開けてくる。
 まるで体育館のように奥行きがあって、天井も先ほどの扉よりも更に大きくて高い。天井多角に備え付けらた大きな窓から、光が差し込んで、部屋の内部を映し出している。
 調度品も少なく、全体的に控えめだが、敷かれた絨毯やカーテンなどは高級品で、この部屋の床や壁も高い材質のものが使われているらしい。
 「…コロナ」
 大賢者は小さくそう行って、軽くあごをしゃくった。中へはいるぞ、と言いたいらしい。
 コロナは小さく頷き、大賢者の右斜め後ろに立った。
 それを確認した大賢者はゆっくりと、けれどもじれったさを感じない威厳と風格を出しながら、奥へと歩いていく。コロナも負けじと威厳を出そうとがんばってみるが、どうしたって無理で、いつもより無愛想な顔になっただけだった。
 部屋の一番奥。
 大きな翼の鳥が描かれた国旗を背負うような形で、玉座はあった。どしりとしていて、品のいい細工がされている。その隣にはやや小ぶりながらも、十分豪奢な椅子がある。この椅子に妃が座っているのだ。そして更に隣には一回り小さい椅子が二つ、並んでいた。玉座と同じ細工がされていて、どちらもまったく同じデザインをしている。けれども色は、白と黒、対照的に分かれていた。

 「国王陛下のおなぁーりぃー!」
 玉座の横にいた、近衛兵(部屋の外にいた近衛兵とは別格らしく、鎧も少しばかり豪華)が高々と声をあげた。大賢者はその声に膝を折り、深々と頭を下げる。それに習ってコロナも同じように膝を折り、頭を下げた。
 頭を下げてからしばらくすると、マントやドレスの裾を引くような衣擦れの音が断続的に聞こえ、やたら静まり返った部屋に反響する。複数の音が重なって断続的に聞こえていたが、やがて一つ、二つと音が消え、
 「…面を上げなさい」
 完全に静まり返ってから数秒後、男の声が上から降ってきた。
 その声に促されるまま、コロナも顔を上げる。
 目の前の玉座に、まだ若い男性が座っていた。王様らしい飾りのたくさん入った服を見につけ、マントをまとっている。そして頭には厳つい王冠がこれでもかと輝いていた。ちらりと視線を横にずらせば、王よりももう少し若い妃が、シンプルだが十分華やかなドレスをまとい、額にティアラを乗せて静かに座っている。
 そして行儀が悪いと思いつつ、もう少しだけ視線を横にずらしてみた。
 先ほど見た瓜二つで、白と黒と色違いなだけな、双子の王女のために用意された椅子。
 その黒い椅子に、黒いイブニングドレスをまとい、黒く光る宝石を掲げた小さなアクセサリーで少しだけ頭を飾った、黒いショートヘアーのミクロ王女が、心持小さくなって座っていた。
 隣の椅子には誰も座っていなかった。


* * *


ふぃー…なんだか久しぶりですが、更新ですー。
ようやく王様登場。ミクロも久しぶりに登場!
…次回でいよいよ冒険へのスタートが始まる!…はず…(弱いなぁ、おい)

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旅戦の王女 第10話『ある賢者への訪問者10』

 前を歩く白い服を着た老人の背中を追いかけながら、長い城の廊下を歩いていく。だいぶ年をとって、毎回見るたびにシワが増え、背骨も少しずつではあるのだが、だいぶ曲がっているように思う。けれども、まだまだ祖父の背中は大きくて、届きそうにもない。
 「…コロナ」
 祖父こと大賢者様は前を向いたまま、足を止めるでもなくコロナに話しかけた。コロナも足を止めずに「はい」と短く答える。
 白いヒゲの下で口が動き、
 「…お前は、ミクロ王女のことが好きか?」
 そう、言った。
 「えぇ、まぁ…」
 ―って、
 「はぁ!?」
 なんだその質問は!コロナは思わず驚いて一歩飛び退き、質問の内容を理解したのと同時に、自分がうっかりと言ってしまった返答を思い出し、一気に顔から湯気が出るほど真っ赤になった。
 「ば、バカなこと言わないでください!いきなり何を言うのかと思えば不意打ちするように変なことを言って、お爺様はアホですかっ!!!」
 「コロナ」
 早口で巻く仕立て上げた台詞を、たった一言、本当に小さな声によって制された。
 うぐっと次に言おうとした言葉を喉の奥に飲み込む。
 「…別に、お前がミクロ王女に恋しているかどうか聞いているのではない。ただ、一国の王女として、そしてお前は一賢者として、ミクロ王女に好いて使えているのかと聞いておるのじゃ」
 諭すようにゆっくりと、しゃがれているがよく通る声で言った。そして厳かにコロナの方に向き、そっと、シワが刻まれた細く長い手で、コロナの首に収まっている金色の首輪に触れた。
 「…この首輪は、賢者としての英知や一生を、民草、そして民草を統治する王家へ捧げるという証じゃ」
 「………」
 コロナはじっと見据える祖父の目を見ることが出来ず、やや斜め前を見ていた。どこか腑に落ちないように唇を尖らせる。
 ―そんなことは知っている。ずっと、物心ついた頃から聞かされたことだ。
 本来ならば何年も知識と教養を身につけ、王家への誓いの儀をしてから、本格的に賢者へ昇進するときにつけられるもの。しかし、コロナにはその工程はない。
 「お前は幼くして、すでに賢者として申し分ない力を持っていた。あと数年すれば、お前はわしを超えてしまうだろう」
 それも昔から聞いていたことだ。
 だからこそ、コロナの意向なんて無視して、さっさと賢者としてのこの重たい首をつけたのだ。
 「…『大賢者』様、つまり何が言いたいのですか?」
 さっきから聞いていれば、どれもこれも小さな頃から周りでいわれていたことばかり。その俺の話と、さっき言っていた「ミクロ王女のことが……す、す…」(好きなんて言えるか!バカ!)…と、いう話題はどこへ消えたんだ?…一体。
 「…お前の力は、他の誰よりも勝ることが出来る。…しかし、それをミクロ王女のために使う意思はあるのか?」
 「……それは…」
 それは?
 改めてそう聞かれてみると、自分の気持ちというものがわからなくなった。それこそ自分が賢者になったのは、周りの人間が勝手に「天才だ」と褒めて勝手に決めたこと。よって民に対しても王家に対しても、他の賢者と比べると遥かに情は薄い。…まぁ、賢者としての職は気に入っていない訳ではないのだが、それでも俺はこの首輪を外し、誓いの儀を取り消すことを申請したって、出るとこ出れば俺が勝てるハズだ。
 ―しかし、

 『ありがと!いただきまーすv』
 『…ミシロを…ミシロを助けて…!』
 『…っ私に内緒で、みんな勝手にいなくなるなーっ!!!』

 くるくる表情が変わって、気品さなんて遠いところに置いてきてしまったようなお転婆ぶり。 人の迷惑顧みないで、とにかく自分が思うがままに突っ走ってしまって、

 『コロナ』

 ―そしてあの灰色がかった黒い大きな瞳が、なんだかやたらに澄んでいて、とても綺麗で…。

 「…俺は…」
 ふぅと息を一つはいてから、今度は大賢者の目をじぃと見つめ返すことが出来た。
 「…俺は、望んでこの首輪をつけた訳じゃないですが、でも…」
 なんと言えばいいのかわからないし、きっとこの陰湿な大賢者様は俺のことを試している。でも、今思っていることをはっきりと、
 「…ミクロ王女に、応えたいです」
 言った。
 それまでしかめっ面で黙ってコロナのことを見下ろしていた大賢者だが、その言葉を聞くと目じりを緩め、
 「…うむ、そうか…」
 ゆっくりと、嬉しそうにそう言った。
 それからそっと首輪から手を離し、再びくるりと向きを変え、そして何の前触れもなくまた前を向いて歩き出してしまった。
 「あ」
 一秒ほど遅れてコロナも気づき、慌てて追いかけ歩き出す。
 「…これなら…」
 ふと、背中越しに大賢者がぼそりと何か言っているのに気づいた。コロナはそっと早歩きでやや斜め後ろまで近づき、聞き耳を立てる。白いヒゲに囲まれて多少くぐもっているが、元々よく通る声なので、聞き取ることは容易であった。
 「…これなら、コロナを旅に出させても大丈夫だろう…」
 「―は?」
 今度こそ、コロナの足は完全に止まった。


* * *


今回の話で王様と謁見する予定だったのに、気がつけばコロナとじいちゃんの話で終わってしまった…;
つ、次こそは…;

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