FC2ブログ
 

祭のものぐさもったり手帳

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

旅戦の王女 第19話『籠の少年。青空目指して2』

 指定された場所に車を止め、車外へと出る。
 今ちょうど実技訓練の真っ最中だとかで、宿舎を見る限り人の気配は感じられない。ただ遠くで小さくではあるが、カンカンという高い打撃音が聞こえてきた。木製の剣による手合わせだろうか?
 「これはこれは賢者様」
 注意がそれていたところにいきなり大きく太い声が耳に飛び込んできたものだから、思わず驚いて飛び退く。
 「はっはっはっ!驚かれましたかな?」
 豪快な笑い声が自分よりかなり高い位置から降ってきて、恐る恐る見上げる。見れば大柄の男が黒いヒゲの生えた(大賢者のように今にも抜けそうな細長い感じではなく、ごわごわと硬そうなの)口を大きく開き、歯を見せて大きく笑っていた。コロナは自分より二倍くらいの体積を誇る巨体に恐れおののくが、着ている服は間違いなく兵の制服。しかも上級であることを表すマークが肩のところについている。ということは?
 「申し遅れました。私はこの施設の隊長をしております、ゴーファンです。どうも」
 簡単な自己紹介と共に大きくて頑丈な手がコロナの目の前にずぃと差し出される。少し躊躇したが、相手が隊長であるとわかれば恐怖なんてほとんど晴れてしまい、すぐに大きな手と自分の手を重ねて握り返した(なんだか赤ん坊の手を握る父親みたいな握手だな…)
 「…賢者のコロナです。この度はご協力ありがとうございます」
 握手を交わしながらコロナも自己紹介をする。もっとも、相手にはすでにコロナという名前も賢者であるということも知っているので、あくまで確認のため簡単に。それと軽い御礼も。
 「いやなに、王の命令とあらば…そして王女の…」
 最初のときと変わらぬ様子で話していたゴーファン隊長だが、言葉を言いかけてそこで切り、
 「…詳しいことは中で話しましょう。事情を知らないもの達もたくさんいるものでねぇ」
 少しばかり音量を下げ、ぼそぼそと耳打ちするように提案してきた。
 訓練兵が事情を知らない?てっきり王族関係者の耳にはミシロ王女の異変は知らされていると思っていたのだが、違うらしい。郷に入れば郷に従えというが、この訓練施設にも何かしらの事情があるようだ。それに特別外で話す理由もなかったので、コロナは大人しく「えぇ」と肯定の意を示す。

 ゴーファン隊長の案内により、コロナは施設内を歩く。
 施設内は主に二つのエリアに別れていて、コロナたちが今歩いているのは生活エリア。訓練兵たちが泊まる宿舎や、大人数でも対応可能な食堂や浴場などがある。四角いブロックが無造作に建てられて密集しているこのエリアが、訓練兵たちの生活の場となっているそうだ。
 この生活エリアを抜けると、そこにはもう一つのエリアである訓練エリアがあるらしい。闘技場や体育館、更には射的場から乗馬場まで、近衛兵として必要なスキルを養うありとあらゆる施設が完備されているらしい。今いる生活エリアに人の姿を見かけないのは、皆がその訓練エリアへと行ってしまっているからなのだそうだ。すべてゴーファン隊長より聞いた情報である。訓練エリアがどんな場所なのか興味がない訳でもなかったのだが、「事情を知らない兵士がいるので…」とゴーファンが語尾を濁すので、訓練エリアへ行くことはしばし保留となった。
 二人は他の宿舎よりも若干小さく、そして若干小奇麗な建物へと入った。
 「ここは来客用でしてね。普段は使っていないので大急ぎで掃除したのですよ」
 そう照れくさそうに話すゴーファン隊長と部屋を見比べて、あぁなるほどと納得する。確かにだいぶ綺麗だが、まだ隅や細かいところには汚れが目立っている。これで『掃除した』のだから、宿舎や他の施設の中がどんな状況なのか安易に想像がつく(俺も城下の礼拝堂をほとんど掃除していないから、偉そうなこと言えないけど…)
 ゴーファン隊長はしばらく使っていない応接用のソファに座るよう促し、相手も反対側のソファにどっかりと座った。なんだか革張りのソファと巨体が妙に似合っていない。
 「…改めまして。賢者コロナ様。ようこそ近衛兵訓練施設へ」
 堂々とした口調で快く迎えているという意志を見せた。
 「ここでは『モノケディア王国』を守る精鋭となるべく、皆心身ともに鍛錬を積んでおります。どの者も、きっと賢者様のお力になれることでしょう」
 堂々とした態度と最後ににっと見せた笑顔からは自信が感じられる。相当部下達のことを信頼しているようだ。
 「…お力添え、感謝いたします…」
 やや自信満々な態度に押されつつ、コロナは頭を下げた。すると頭上から「はっはっは」という豪快な笑い声が一蹴する。
 「こちらこそ、モノケディア王族の力になれることは最上級の喜びです。どうぞどいつでも連れていってくれてかまわないので、遠慮なくコキ使ってやってください」
 丁寧な言葉遣いに時折見せる粗雑な雰囲気がいかにも力自慢の男、という感じがする。このような男の下で鍛錬はそりゃあきつそうだが、間違った方向へは育たなさそうだ。これならモノケディアの未来も安泰だろう。

 ―『モノケディア』
 それがこの国の名前である。
 機械の目覚しい発展によって王政から徐々に民衆政治へと変わっていく国も多い中で、小国ながらも未だに王政を貫いている。深い伝統と歴史の国であり、今でも有数な魔法使いや賢者がたくさんいる。逆に言えばそれだけ先進国に遅れを取っているのだが…しかし今のところそれを不平に思う国民もいなければ、王族は嫌われるような政治もしていない。
 「この施設はモノケディアを心より愛する者たちばかりでして…最も、嫌っている奴らは最初の試験で落とすのですがね」
 ゴーファン隊長は相変わらずはっはっは、と大きな声で豪快に笑い飛ばす。
 「…それならば、どうしてミシロ王女について知らせないのですか?」
 ぴた…と、豪快な笑い声が止まった。
 「…賢者様なら、お察しがつくんではないでしょうか?」
 それまでの堂々とした雰囲気や粗雑さが一気に消えてなくなった。ゴーファンは広くてがっしりした肩をがくんと落とし、ややうつむき加減で話す。
 「…どの兵士もモノケディア王国を愛しております。だからこそ、話さないのです。話しでもしたら、城下以上の大混乱となりますので…」
 確かにまだミシロ王女の話は一部の者たちだけの極秘事項。事態が大きくなる前に眠りについたミシロ王女を救うこと。それがコロナの使命である。
 「もしも話しが漏れたら、一目散に皆総出でミシロ王女を救いに行くでしょう。しかしそれでは逆に国を混乱に陥れてしまう。12年前の『あの事件』が繰り返されないためにも、まずは我々が冷静な態度を取らなければ…」
 今すぐにでも助けにいきたいのはゴーファン隊長も同じようで、本当に苦しそうな表情と口調でそう搾り出すように話す。
 (…『あの事件』…か…)
 最後に付け足された一文に、コロナがぴくりと動いた。
 ―12年前、コロナもまだ生まれていなかった時代。平和そのものであったモノケディア王国を、大きく揺るがす事件が起こった。
 (…『闇の現(やみのうつつ)事件』…)


   * * *


お久しぶりでーす。
ということで遅ればせながら第二話…。
隊長さんとのおしゃべりです。残念ながら帝のところの陽気で素敵でイケメンなタイチョさんじゃないですが…(むさい巨漢だよ、おい)
そしてようやく王国名も決定。何からもじったのか見え見えですな。
次回は少し歴史の話ですので、つまらないこと請け合いです。
でも『闇の現事件』は重要な伏線ですので、しっかり書いていこうと思います。

スポンサーサイト

PageTop

旅戦の王女 第18話『籠の少年。青空目指して1』

 「あ!あれのこと!?」
 前方を指差し、ミクロ王女こと、トーンは声をあげた。トーンの元気な声に後押しされ、コロナも少し身を乗り出し、前方を見据えた。
 なだらかな平原の中、徐々に高い塀がせり上がるように見えてくる。石を積み上げられた塀は頑丈そうで、近づく度に威圧感が感じられるほど。
 (…あれが王家に仕える精鋭たちを育てる、近衛兵の訓練施設か…)
 世俗から隔離しているのではないかと思ってしまうほど、訓練施設をぐるりと覆う塀は高い。あまりにも高い塀なので中をうかがうことは出来ないが、一つだけ例外があった。
 「…あれは…」
 塀の中から一本、塔のような建物が見える。骨組みが見えてスカスカの塔の頂上には半鐘がつけられている。どうやら外界の様子を見るための物見台らしい。
 ―カーンッ!
 「あ、鐘がなったよ!」
 城下の礼拝堂の大鐘よりも数段高い音が平原に響く。トーンはんーと何か考えるように首をかしげ、時計と鐘を交互に見合わせながら、
 「おかしいなぁ…今中途半端な時間なのに…向こうの時計、間違っているんじゃないの?」
 ぶつくさ文句を言いながら座席に深く座りなおした。
 トーンが何で時間を間違えていることに憤慨しているのかコロナはわからなかったが、すぐに思いたった。礼拝堂の鐘は定時になると鳴らしているものだから、あの物見台の鐘も同じものだと勘違いしているらしい。鐘は別に時刻を知らせるためにあるだけではないのだが、どうやらトーンの世界は思った以上に狭いようだ。
 「…王女。…あの鐘は時刻ではなく、塀の中の人たちに異変を知らせるためにも鳴ったのです。」
 「いへん?」
 トーンの疑問符の位置からして、もしや『異変』という言葉の意味から教えなければならないのか?と一瞬ひやっとしたが、
 「何かあったの?」
 すぐにそう付け足してきたので、どうやら『異変』の意味はしっかり理解しているようだとわかってほっとした。
 「来客が来たと伝えたのでしょう」
 「…らいきゃく…お客様かー、へー…」
 コロナの説明に納得したように、トーンは物見台の半鐘を眺めて小さく何度か頷く。
 こんなすっとぼけた会話は、城下から今までの数時間の間に幾度となく繰り返されてきた。なので堅物で人当たりの悪いコロナでも、トーンの扱いに慣れてしまった。こういうときは、無理に突っ込んだり説明したりせず、適当に納得させておけばいい。
 お客様=自分たち。という図式が未だに頭に浮かんでいないトーンはほうっておき、コロナは塀が近づくにつれて徐々にスピードを落としていき、門の前で車を停止させた。
 厳つい木造の門が、塀と同じ高さまで伸びて威圧感を放っている。コロナもトーンも示し合わせた訳ではないのだが、ほぼ同時に塀の上を見上げていた。高く凸凹の少ない側面。そして上にはご丁寧に有刺鉄線まで張り巡らされている。
 「…なんだか怖そうなとこだね…」
 トーンの繕わない正直な感想に、コロナも小さくだが同意する。訓練施設、というよりここまで徹底的に警護してくると、収容施設。独房のような雰囲気まで漂ってくる。
 そんなことを考えてしばらく経つと、門の横の小さな勝手口から(勝手口は塀とほとんど同化していたので、一瞬どこから出てきたのかわからずびっくりした)一人の兵士らしき男が出てきた。城の近衛兵のような鎧姿ではなく、ぴしりとした高い襟の深い青色をした制服を着ている。
 兵士は小走りで車まで近寄り、運転席側の窓から車内を覗き込んだ。
 「王より伝え聞いております。賢者のコロナ様ですね?」
 確信した問いに、コロナは「はい」ときっぱり答える。しっかりと情報が伝わっているらしく、コロナが子供であるということに一切の突っ込みはなかった。なかったのだが、
 「…あのー…」
 きっぱりとした態度を取っていた兵士が、なんだか申し訳なさそうに首をひねらせる。兵士の困惑した視線を追いかけなくても、コロナにはその理由がはっきりとわかっていた。助手席にちゃっかりと座り込み、落ち着かない様子で足をぱたぱたとさせている黒髪の子―トーン。
 同行者がいるとは聞いていなかったようで(そりゃそうだ。あとから勝手についてきたんだから)困惑気味におろおろとしている。入れようか入れまいか門と車を交互に見る兵士に、コロナはふぅとため息を一つつく。
 「…事情がありまして、この子も一緒にいれてほしいのですが」
 とりあえず色々ぼかしてそう聞いてみる。しかし兵士の方はどうにも腑に落ちないようで、
 「…しかし…この施設に王族とは無関係の人物を入れるのは…」
 などとぼそぼそと言っている。
 「ずいぶん徹底しているんだね?」
 二人の会話をノンキに聞き、そしてノンキに感想を言うトーン。この地味なオーバーオール姿の黒髪な子供が、まさかその王族の関係者どころか、王女だと誰が想像できるだろうか。もしもその事実を知ったら、この兵士はどんな反応を示すのやら興味がない訳ではない。

 しばらく押し問答を続けて、兵士はようやく合意し(むしろ観念した)門を開けた。勝手口へと兵士が消えると、しばらくしてぎぎぎぃ…と地面やら木やらをこする重低音が響き出す。するとゆっくりとだが門が左右に開き、視界が開けていく。
 ―がこんっ!
 門が完全に開き、中がはっきりと見えるようになった。門の中には平たい屋根をした細長い建物が、ブロックのように幾何学的に建てられている。どうやらこのブロックのような簡素な建物が兵士の宿舎らしい。
 外から見えた物見台は、そのブロックの中央にあるようだった。
 「では、中へどうぞ。停車場までご案内します」
 兵士の案内を受け、コロナは再び車のエンジンを入れた。


   * * *


ということで新シリーズです。
題名やストーリー展開からいって、次に誰が出るのかは予想がつくと思われます。とりあえずがんばりまーす。

PageTop
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。