祭のものぐさもったり手帳

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旅戦の王女 第21話『籠の少年。青空目指して4』

 「―…そのあとすぐに、この訓練施設が創設されました」
 腕を組んだゴーファンはゆっくりと語る。
 「訓練施設が出来るまでは兵士は一般より選出していました。…しかし例の事件によってそのままでの体制ではだめだとわかりました。幼い頃より徹底的に兵士としての心構えと体術を叩き込み、負の力すら撥ね退ける強靭な肉体と精神を作り出す。それがこの施設の目的です」
 一気にそれだけ話したゴーファンは一度ふーっと深く息を吐きながらソファに体を沈めた。
 「…そして、今度こそ『モノケディア』を守る…と?」
 それまで静かに話を聴いていたコロナが口を開いた。小さいながらも凛とした声にゴーファンはゆっくりと頷く。
 「『闇の現事件』のとき、兵士達は討伐中に負の力に飲まれ、仲たがいを起こしました。一揆団結すべき仲間を、疑い、憎み、ついに隊の中で争いが起きました。…そのときに、近隣の人々にまで襲い掛かってしまいました。…何の罪もない…人々です。…そして…」
 息苦しそうに話し、もうゆっくりと息を吸って肺を満たし、
 「…そして…私も例外ではなかった…」
 苦々しく、搾り出すようにして言った。ゴーファンは大きくてごつごつした自分の手をじっと見て、わなわなと震えながらぎゅっと血がにじむほど握り締めた。
 12年前といえばまだ最近のこと(コロナやトーンには生まれていないのでずいぶん昔のことに思えるが)ほとんどの大人はそのときの恐怖を覚えている。
 人が人として信じられなくなる。
 自分以外のすべての人間が敵に見える。
 「…だから今こそ!12年前の過ちを正すとき!」
 ばんっと勢いよく机を叩き、ゴーファンは意気込み勇んで立ち上がった。真正面に座っていたコロナは突然せり上がってきた巨体に驚き、思わず肩をすくめて後ずさる。
 「愛しきミシロ王女を救うためっ!男ゴーファン!例え火の中!水の中ぁっ!」
 「…ちょ、ちょっと…」
 本当に今にも火の中でも水の中でも飛び込んでいきそうな迫力に、たじたじとなりながらコロナは必死になだめる。
 「…落ち着いてください…隊長をお連れする訳にはいきません」
 相手に届くように一言一言しっかりと区切ってそう伝える。そんなコロナの言葉に、ゴーファンはまるで空気が抜けるように再びソファへ座り込んだ。
 「…いやはや…失敬…」
 ははは…と苦笑して頭をかく。
 「王女のこととなるとつい頭に血が上って…いや、申し訳ない…」
 ふーっと再び息を吐き、ポケットに入れていたタオルを引き抜き、額の汗を乱暴にぬぐう。
 「私はここで兵を養成して、いつ何が起こってもいいように準備をしなければ…」
 きちんと自分の役割を理解し、復唱しているのを見てコロナはほっとした。粗暴で本能的ではあるが、本当によい人格の人のようだ。

 「…では、早速兵の選出をさせていただきます」
 コロナの申し出にゴーファンはにっと笑い、
 「えぇ!どうぞどうぞ!賢者様の一人旅はお辛いでしょう。ですから車に乗れるだけ連れて行ってやってください。その方が若い奴の養成にも繋がりますので」
 身振り手振り大振りに豪快そのものの説明に、コロナは本気で腰が引け始めていた。が、
 「…”一人旅”…?」
 コロナの呟きにゴーファンは哀れむようにして答える。
 「こんな小さい賢者様が一人で旅に行くとは…城の兵がもっとしっかりしていればこのような辛い思いはさせずにすんだものを…」
 「いえっ!そうではなく!」
 珍しく大きな声をだし、ゴーファンの声を一刀両断した。きょとんとしているゴーファンに対し、コロナは息を整え、ゆっくりとしっかり問いかける。
 「…もう一人…連れがいる…のですが?」
 それに対してゴーファンは、
 「いえ?私は見ていませんよ?」
 そう、はっきりと答えた。
 コロナは慌てて前後左右に首をめぐらせた。
 ―誰もいない。
 辺りを世話しなく見回したあとは腕を組み、最近の記憶をたどる。…訓練施設に入る前はいた。…車からも一緒に降りた。…俺が施設を見回して、隊長が現れたときには…すでに姿は見えなかった(ように思える)
 ずっと後ろを大人しくくっついているのだと思っていたが、大きな思い違いだったらしい。注意力散漫だといえばそうだが何も俺だけの責任ではないはずだ。
 「…まったくあの方は…!」
 本当にどこまで落ちつきのない王女なんだ!



* * *



自分が注意していなかっただけなのに人のせいにするコロナ。
大人げねー。

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