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祭のものぐさもったり手帳

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旅戦の王女 第29話『籠の少年。青空目指して12』

 ―『妖精族』
 それはこの世界に数多存在している種族の一つである。
 人と似通った姿をしているのだが、成長のサイクルは大きく違っている。人は成長し、徐々に老いていくものだが、妖精には老いる行程がない。10代の半ばで成長は止まり、一生子供の姿でいるのだ。そのため、妖精族は無邪気な性格が多いのも特徴である。
 更に妖精族は移動性に非常に優れ、背中に生えた二対のの羽で自由に飛びまわることが出来るのだ。
 そして非物質的存在である『扉』を潜り抜けることの出来る、唯一の種族でもある。
 妖精族は移動をする際、重力や風の抵抗を減らすため、自らの存在を物質から非物質へと変化させることが出来る。トランス(変身)能力を持つ種族は数多いるが、非物質へのトランスが出来るのは妖精族のみである。

 「…どうして妖精族が…」
 コロナは今もその状況が受け入れられなかった。
 『扉』は確かに、祖父・大賢者のところへ開いたハズだったのだ。しかし、こうして現れたのは妖精族の少女である。
 トーンも何が起こったのかさっぱりわからず、いつものボケた発言も出せずにぽかんと口を半開きにしている。
 「…おい、これはどういうことなんだ…?」
 信じられなくても事実は事実。コロナは理由を知るため、妖精の少女にやや厳しい口調で問いかけた。けれども妖精族の少女は答えず、きょとんとした顔で小首をかしげる。
 あくまでそ知らぬふりをしている妖精に、コロナは憤りを覚え、更に口調を強めた。
 「何か言わなければわからないだろう!?」
 途端、びくっと妖精は肩を震わせた。
 「え?」
 (…まさか…びっくりして怯えてしまったか?)
 妖精族は子供のまま成長しない種族。故に心も純粋で無邪気で、要は子供なのだ。コロナはそのことを思い出し、もっと優しく問いかけるべきだった…と後悔をした。しかし、遅い。
 妖精は拳を握り締め、わなわなと震わせている。顔をうつむかせているため、表情はわからない。が、誰がどう見ても、今すぐにでも泣きそうな状態である。
 コロナは慌てて弁解に回った。
 「そ、その…厳しい言い方をしてしまったのは悪かったが…ただ、こっちも情報が少ないだけに、詳しい説明がほしくて…それで…そのような態度を取られて…その…」
 何が言いたいのかもはやわからなくなり、あちこち目が泳ぐ。しかしコロナは必死に頭に思いついたことを口にしていき、妖精の機嫌を取ろうと奮闘する。
 が、妖精の震えは更に増し、握り締めた拳をわなわなと顔のすぐ近くで震わせている。
 「…か…」
 妖精が何か小さく呟き声が聞こえた。
 初めて相手が喋ったことで、コロナは少し安心するものの、相手が怒っているのか泣いているのかはまだわからない。すでに冷静という言葉は地の果てまで吹っ飛んでしまい、コロナは体裁も関係なく無様にあたふたしながら、
 「…その…すまな…」
 謝罪の言葉を言おうとした、まさにその瞬間。
 「…かっ…可愛いーっ!!」
 妖精は猛スピードで飛び出した。コロナ目掛けて。
 「う、うわあぁっ!?」
 コロナは突然の行動に驚き、とっさにその場にうずくまる。すると妖精はコロナの頭上を飛び越え、
 「可愛いぃ?!」
 後ろで待機していたトーンに抱きついた。 
 「…え?え?えぇ?…な、何?何?」
 いきなり抱きつかれてトーンは目をぱちくりとさせる。抱きついた妖精はと言えば、幸せそうににっこりと微笑んでいる。首に回した腕はがっちりと組んでいて、離れる気は―ないらしい。
 「…な…なんなんだって言うんだ…」
 コロナは疲れ果て、ぐったりと項垂れた。


* * *


きちんと出すと言っておきながら、こんな登場の仕方で申し訳ありません;
プラチナちゃんのキャラが偉く違う気がしてならない今日この頃…;ぷらち子さん、申し訳ありませんです;

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旅戦の王女 第28話『籠の少年。青空目指して11』

 兵士たちは夕方になるまでこの生活エリアには帰ってこないらしい。しかしなんとなく人目が気になり、そそくさと建物の影に立つ。
 コロナは足元に落ちていた手ごろな拳大の石を拾いあげ、地面に何かを書き始めた。自分の体を軸にし、コンパスのように円をぐるりと描く。それから幾何学的な模様。まるで子供の落書きのように意味があるのかないのか、よくわからない文字を付け加えていく。
 しんとした居住区で、ただがりがりと石が硬い地面を削る音が聞こえている。
 「何してるの?」
 一連の動作を一歩離れた位置から見ていたトーンが、至極当然な疑問を投げかけた。コロナは地面を削りながら答える。
 「城と連絡を取るため、『扉』を開くための魔法陣を描いているのです」
 「扉?…扉…って…」
 コロナの答えに対し、トーンはドアノブを回して開く動作をしてみせた。小首をかしげ、「これ?」と聞くと、コロナは是も否もなく、
 「そういう扉もあります」
 そう答えた。
 「?…え?」
 言ったことが合っているのか間違っているのか、さっぱりわからずにトーンの頭上でハテナマークが踊る。がりっと最後に点を一つ書き、コロナは立ち上がった。コロナを中心に、円状の模様―魔法陣が出来上がる。
 「…意味合いとしては、ミクロ王女がおっしゃる扉も、この『扉』も同じです。概ね、扉という言葉の意味は、壁などで阻まれた向こう側へ通じるために、意図的に開けられた空間のことを差しますから」
 いや、そんなことわかっているんだけど…とトーンも思ったのだが、改めて扉の意味合いなどについて大真面目に説明され、なんだか妙に圧倒されてこくこくと頷く。
 「しかしこの両者の最もたる違いは、物質的にそこに存在しているか否かです」
 「…う?」
 トーンの頭上を再び飛び交うハテナマーク。コロナの表情が苦々しくなり、呆れたように説明する。
 「…物質的にそこに存在しているか否か…つまり、目で見て手で触れるか、そうでないかの違いです」
 コロナの説明に一度は「あぁ!」と納得したトーンだが、すぐにハテナマークが浮上してくる。
 「…え?でもさ」
 トーンはとてとてとコロナの元まで近寄り、ぺたんとしゃがみ込んで手を伸ばす。
 「触れるよ?」
 ぺたぺたと地面に描かれた魔法陣に触れてみせる。
 「…それは『扉』を触っているのではなく、『扉』を開くための魔法陣が描かれている地面に触れているだけです」
 「…へ…?」
 「……それと、そこにいると危ないので少し離れてください」
 頭上から冷静なツッコミと注意が入り、トーンは頭上のハテナマークが取れないまま、渋々立ち上がって数歩離れる。その様子を見て、コロナはやはり自分の説明はすればするほどややこしくなるのだとわかり、少しばかり気落ちする。頭を抱えてどうすればよりトーンにも理解してもらえるかを考え、
 「…では実際に見せた方が早いと思うので、始めます」
 そういう結論に至った(むしろ最初からそうした方がよかったのではないだろうか?)

 コロナは魔法陣の外に出て、国を出るときに持ってきていた魔法書をパラパラとめくる。すぅと息を吸い、静かに、文字を言葉にし始めた。
 「…遠き地に居し人よ、我が言葉を伝えるため、我が姿を見せるため…」
 地面に描かれた魔法陣から光があふれ出す。それと同時に模様の流れに沿って風がどこからともなく吹き出し、綺麗な螺旋を描いて空へ伸びていく。
 トーンは目を見張った。
 螺旋に伸びた風の中に、あるはずもない『扉』が現れたのだ。眩い光を放ちながら、半透明の不思議な『扉』が、悠然と立ちふさがっている。
 「…今、『扉』を叩かん…」
 そう言ってコロナは右手を出し、目の前に現れた『扉』を三回、静かにノックした。
 ―ギギギイィ…
 ノックに応じたのか、『扉』は静かに開き始めた。
 コロナの頬を、冷や汗が一筋流れる。『扉』の向こう側にいる人物は、当然、あの人。城を出てからまだ半日。いきなりの問題に対して、相手は怒るか、呆れるか…少なくとも笑顔で出てくるハズはない。
 (さて、なんて説明しようか…)
 そのときのことを考え、指先などに力が入る。
 ―ギイィ…
 『扉』が完全に開き、コロナはごくりと静かに息を呑む。離れたとこで見ているトーンも、好奇心と恐怖を一緒くたにして次の瞬間を待ち望んでいる。
 『扉』の向こう側に人影が見える。そうすると二人の緊張は最高潮に高まり、
 「…え?」
 そしていとも簡単に砕け散った。
 淡いブロンドのツインテールに、青いヒラヒラとしたワンピース。瞳は赤みがかったオレンジ色。精巧な人形のように愛らしい目鼻立ち。背中には半透明の薄い、ベールのような羽が二対。
 そう、『扉』の向こう側にいたのは、一人の少女だったのだ。

 少女は一歩脚を踏み出し、『扉』を潜り抜けてくる。
 「…そ、そんな…『扉』を潜り抜けられるなんて…そんなこと出来るのは…」
 『扉』は開くことは出来ても、それを人が潜り抜けることは出来ない。『扉』は実際の扉と異なり、物質的に存在はしていない。それを物質である人が通り抜けることが出来ないのは必然なのだ。
 それが出来るの種族は、この広い世界の中でたった一つ。
 「……妖精族…?」
 信じられないと言った表情で、コロナは呟いた。



* * *



コロナの、「詳しく説明しようとすればするほどややこしくなって長くなって意味不明になる」のは、たぶん私のせいだと思います。
…ということでほとんど『扉』の説明をすることに…;ゲスト様によいうやく出ていただけたのに…;
ご、ごめんなさい;ぷらち子さん;
という訳で、次回ではちゃんと名前も出ますし、たくさんしゃべっていただきますので…!:

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旅戦の王女 第27話『籠の少年。青空目指して10』

 トーンの喪失が発覚後、コロナはゴーファンに訳を説明し(もちろん、トーンがミクロ王女であることは隠して)一緒に施設内を探した。どこに行ったのか?怪我などはしていないか?もしや何か悪いことに巻き込まれたか?様々な不安要因を思い浮かべては必死に振るい落とし、激しい焦燥感に駆られながら必死に探していた。―のだが、当の本人は訓練場でノンキに模擬試合ときたものだ。
 「…あ、あのね…コロナ…」
 くいっと袖をつままれ、コロナは後ろを振り向いた。今回の騒ぎの張本人が小さく縮こまりながら、上目遣いでこちらの様子を伺っている。
 「…えっと…その…」
 口をもごもごとさせ、言いたい言葉を捜している。すぅと息を少し吸い、
 「…ごめんなさい」
 出たのは本日二度目の謝罪だった。
 訓練場からここまで、コロナのやや後ろをトーンがトボトボついてくるという図式で10分ほど歩いていた。その間始終無言で、次の言葉が発せられるのを拒否したような、非常に重苦しい沈黙が続いていた。もちろん、その沈黙を作っていたのは他ならない。コロナである。
 「………」
 コロナは怒っていた。
 一国の王女でありながら、こうして賢者の旅に付きまとい、更には自分勝手な行動を起こして周りに迷惑をかけているトーンに。そしてそのような事態に対応仕切れず、野放し状態にさせてしまっている自分自身に。
 「…ミクロ王女…」
 はっとトーンは反射的に顔を上げた。と、同時に周囲に人がいないかときょろきょろ確認する。幸い、周りに人はいない。聞かれていなかったとほっとトーンは肩をなで下ろしたが、同時に思った。
 今、コロナが話したい相手は、旅人トーンではなく、モノケディア王国の王女、ミクロなのだと。
 四輪駆動に乗り込み、トーンという名前をつけてもらってからずっと呼ばれていなかった名前。城にいたときにはさほど感じなかったが、しばし離れてみて、改めてこの名前の重さを実感した。
 トーンは視線をうろうろと泳がせる。が、それを見ているコロナの瞳は真剣そのもので、微動だにしない。
 コロナの唇が小さく言葉を形作る。
 「…城へ、帰りましょう?」
 予想していた、最も聞きたくない言葉だった。
 「…だ、駄目っ!」
 トーンは倒れこむようにしてコロナの腕にすがりつく。コロナの体が後方へ一度揺れるが、体制を一切崩さず、腕の中の少女を見る。
 「…だって…ミシロが…まだ、何も集めていないのに…」
 眠りついた双子の王女、ミシロを救う。そのために古い医学書に書かれていたアイテムを集めること。そして世界の均衡を乱す者を倒すこと。それがトーンの目的であった。
 「………」
 コロナは必死なトーンの様子を、驚くほど冷静に聞いていた。最愛である双子の王女の話をして、大きな灰色がかった黒い瞳が涙で滲む。傍から見ていても、痛々しくて胸を締め付けられそうな悲痛な叫び。しかし、
 「…なら、どうしてそれを態度で示されないのですか…?」
 コロナには好き勝手自由勝手な行動をするトーンが許せなかった。何をしでかすかわからない、無邪気な破天荒さ。それがトーンの最大の魅力であることもよく知っている。けれども、ゴーファンの話を聞いていても思ったが、そのような態度では駄目なのだ。
 この先に何があるのか、どのような危険が潜んでいるかわからない。
 そんなとき、このような破天荒ぶりを発揮されでもしたら…万が一の事態にトーンを守りきることが果たして出来るかどうか…。
 「…うぅ…」
 トーンもコロナの言いたいとしていることはわかった。つまり自分は不真面目なのだ。本当にミシロのことを心配し、一刻も早く目覚めさせたいのならば、それ相応の態度をとれ。もっと真剣になれ、と。

 コロナはしがみつくトーンの肩を持ち、そっと自分から離す。
 「…これより、城の大賢者様へ連絡をとります。…行きのときのように、感情にまかせて癇癪は起こさないでください」
 冷たい、突き放した言葉だった。
 しかし今のトーンには、それを受け止め、改善する義務があった。
 「………」
 トーンは静かに、小さく頷いた。



* * *



本当でしたらここでゲスト様を出したかったのですが、二人の現在の心境を表そうと思ったらやたらに長くなってしまったので、これで一話分に…;
次回こそ出したいです…!

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旅戦の王女 第26話『籠の少年。青空目指して9』

 つい瞬間的にトーンは「あはー」と間の抜けた笑みを浮かべてみたが、反応はない。コロナの伏せた瞳はひたすらに冷たい。絶対零度というのはあれのことなのではないかと思うくらい、とにかく冷たい。本当に冷たい。
 あまりの冷たい視線に、とりあえず笑って見せたトーンもだんだん居たたまれなくなり、徐々に笑顔から泣きそうな表情へと変わっていく。
 「トーン」
 突然名前を呼ばれ、びくっと肩を震わせて反応する。コロナは聞こえていたことを確認した後、すっと右手を差し出し、
 「…来なさい」
 言った。
 ゴーファンのような勢いは一切ないのだが、内に秘めているトゲのようなものが、視線や言葉からチクチクとトーンのことをつついてくる。
 叱られそうな雰囲気を感じ、そんなのは嫌だなぁとトーンは行くことを渋ったが、頑として動こうとしないコロナに観念し、ファルルの下からのそりと這い出し、トボトボとコロナの元へと歩いてい行った。
 「…ごめんなさい。コロナ…」
 コロナの横で小さくなりながら、申し訳なさそうに謝る。ちゃんと心から反省していることが読み取れたのか、コロナはトーンの様子にうんうんと頷いた。
 「いやー、見つかってよかったですなぁ」
 さっきまで火山の如く怒鳴り散らしていたゴーファンが、穏やかな表情を浮かべて二人の様子を見下ろしてきた。コロナもゴーファンの方へと向き返り、
 「…非常に申し訳ありませんでした。隊長」
 深々と頭を下げた。それにつられてトーンも慌てて頭をペコリと下げる。
 「いえいえ、お連れ様が見つかってよかったよかった」
 ゴーファンはがっはっはと豪快に笑い飛ばし、二人に頭を上げるようにと促した。
 本当にいい人格なのだなとコロナは感心する。トーンもまた、最初の怒鳴り声と巨体に恐れていたが、豪快で気持ちのいい性格のおじさんだとわかり、安心して笑顔になる。

 「…それでは、失礼します」
 稽古の邪魔をして失礼しました…とコロナは三度頭を下げ、トーンを連れて戻って行った。トーンが何度か後ろをちらちらと振り替えり、その度に「バイバイ」と手を小さく振る。それをコロナが何度か制止し、きちんとついてくるようにと言い聞かせながら、二人の姿は小さくなっていく。
 二人の姿が完全に見えなくなったところで、
 「よーし、お前らっ!罰として外周100週してこい!」
 大きな体を揺らしてゴーファンが吼えた。
 突然の罰ゲームに、ええー!?と当然のごとく巻き起こるブーイングの嵐。
 「だまれえぇっ!!」
 しかし再びの咆哮でブーイングは綺麗に薙ぎ払った。うぐと全員が息を呑み、かしこまる。
 「…大体小手先だけの剣技や弓技では実践では役に立たんっ!12年前の事件で何より必要だったのは己の力のみっ!それを養うためには自ら走り、鍛え、身につけて行かねばならぬ!すべてはモノケディア王と王妃、そして二人の王女!ひいては国民のために!誠心誠意を持って、少数精鋭となるべく…!」
 熱だけは籠もりまくったゴーファンの話に、最初は皆気持ち半分で聞いていた。
 しかしモノケディア王家の話を持ち出された途端、多くの兵士ははっと我に返り、気を引き締めた。
 「確かに遊んでいる場合ではない」
 「愛するモノケディア王国のために…」
 「我々が王家を守らねば…!」
 訓練兵としてこの大きな門をくぐってきた日を思い出していた。口々にそのときの気持ちを言い合い、何のためにここで訓練を積んでいるのか、大切な初心を再び心に刻んでいた。

 コートに立っていたファルルも、もちろんゴーファンの話を聞いていた。
 しかし心はどこか別な場所にあり、胡坐をかき、頬杖をついて空を見上げていた。
 青い空は澄み切っている。
 手を伸ばせば掴めそうな気がしてくる。地面を蹴って高く飛び上がった瞬間、自由になれた気がする。しかし、この世界には重力というものが存在し、空へ届く前に必ず地面へと落下する。更に周りの高い塀のせいで、空自体も非常に窮屈で無機質に見えてくる。
 手を伸ばし、手のひらを目一杯に広げる。太陽が手のひらに収まったように、指と指の間から、眩い光が溢れてこぼれ落ちる。
 ファルルはぐっとその手を握り締めた。硬く握った拳をあちこちの角度から見つめ、
 「………」
 強く、決意した。



   * * *



なんだか短いですが、とりあえずファルル君とは一度お別れ。
ラスト辺りでようやくサブタイトルに話が持ってこられた感じです;
この次辺りでゲスト様をばー…!

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旅戦の王女 第25話『籠の少年。青空目指して8』

 場に再び熱気が戻ってきていた。
 「やるなぁ…」
 「もしかしたら勝つんじゃないか?」
 それまで負け一色であった観衆も、思わぬファインプレーによって変わり始めていた。いや、それでもファルルが…でもさっきの身のこなしはそうなかなか…などと口々に勝敗の行方を言い合う。
 ざわめきが聞こえてきたのか、それとも見直されているということを肌で感じたのか、トーンは嬉しくなって剣を持つ手にも力が入った。
 「…そうこなくっちゃ!」
 ファルルのそれまでのどうしようもない不満顔は、今では綺麗さっぱりなくなっていた。その代わりに愛くるしい猫のような笑顔、そして闘志を燃やした獅子の顔が戻ってきていた。嬉しさからか、ファルルは槍を手馴れた手つきで回し始めた。くるくると腕周り、体回りへと回し、最後に肩でぐりんと大きく回して構えた。
 「すごーいっ!」
 突然のパフォーマンスに笑顔と共にトーンは賛辞の言葉を贈る。それを聞いたファルルは照れくさそうに「へへっ…」と愛嬌たっぷりに笑ってみせた。
 しかし、和やかな雰囲気はそこまで。
 二人は笑みを残したまま真剣な表情へ戻り、対峙した。自分の攻撃が当たる距離、相手の攻撃を避けられる距離、それらを考えながらじわりじわりと間合いを詰めていく。相手の出方を伺いながら、いつ踏み出そうかと模索する。わずかな動作ときっかけが頼りの駆け引き。いつ、どちらがどう攻めてもおかしくない状況。
 観衆は皆、固唾を呑んで試合の行方を見守った。
 そして、
 「…っ!」
 何かをきっかけにして、二人は同時に駆け出した。

 「てやあぁぁっ!」
 トーンが大きく剣を振り、薙ぐ。
 「…え?」
 ファルルの姿が消えた。
 確かに先ほどまで目の前にいた少年の姿が、忽然と、目の前で消えてみせたのだ。瞬間的にトーンは左右を確認したが、いない。ふと、自分の手元が暗い気がしたので上を見上げ、
 「…えっ!?」
 驚いた。
 それは太陽に映る、一点の影かと思った。緩慢な動きでゆらゆらと揺らめいている。しかし、その影は急速に大きくなり、徐々に少年の形を作り出していく。太陽を背にし、輪郭が眩しく照らし出される。
 「…だあぁぁっ!!」
 ファルルは槍を構え、トーン目掛けて真っ直ぐ振ってくる。
 トーンは逃げられなかった。いや、逃げようとしなかった。「逃げてはいけない」と、誰と約束した訳でもないのに、逃げなかった。剣を先ほどのファルルのように横にして両手に持ち、構える。腰と膝をわずかに折り、中腰姿勢で相手を迎え撃つ。
 槍の刃先が剣に触れ、
 「くおぉらあああぁぁぁっ!!」
 怒号が鳴り響いた。
 「うわあぁっ!?」
 突然の大声にトーンとファルルは驚き、二人折り重なるようにして地面に倒れこんだ。下敷きになっているトーンが「重いよー」とじたばた。上に倒れこんだファルルは空中のあの状態からムリに落下したせいなのか、あちこち打って痛そうに顔をしかめている。
 二人はそうやってノンキに痛がっていたが、周りにいた観衆の兵士たちは事の重大さに全身が凍りづいていた。ほぼ、全員が同時に、ぎぎぎと油の切れたゼンマイのように振り返る。
 ずうぅんと立ちはだかる巨漢。ごわごわの真っ黒いヒゲの生えた、岩を切り崩したような強面。太い眉を吊り上げ、眉間に深々とシワを作り、額の血管をブチブチッと浮き上がらせている。
 「…何をやっているんだっ!お前らはぁぁっ!」
 近衛兵訓練施設隊長・ゴーファン。その人であった。
 「は、はいぃいっ!」
 全員が怒号に押され、あまりの恐怖に反射的に敬礼をする。
 「…稽古に励めと言ったが、誰が遊んでいいと言ったぁっ!」
 「い、いえ…遊んでいた訳では…」
 必死に弁解しようとする勇者も現れたが、ぎっとゴーファンの鋭い視線で睨みつけられ、ひっと縮こまる。ここでは隊長は絶対的であることは間違いないらしい。
 兵士たちがゴーファンに怒られる様を見て、トーンは「うわー、怖そうー」なんて単純に他人事に考えていたが(もちろんトーンがこの騒ぎの張本人に代わりはない)次の瞬間、トーンも凍りついた。
 「………」
 ゴーファンの後ろに、白い長衣を着た少年が立っていた。
 深い緑と青をかけたような瞳は―ひどく冷たかった。



   * * *



はい、という訳で試合は中断。
相変わらずののらりくらりぶりで申し訳ないです;
コロナとトーンが合流できたので、そろそろ次のゲスト様にいきたいなとか思っています(今度は誰よ?)

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旅戦の王女 第24話『籠の少年。青空目指して7』

 「ルールはどうする?」
 コートにぴょんと飛び乗ったファルルは首をくいとひねり、トーンを見て投げかけた。もちろん、ただ混ぜてもらいたかっただけのトーンが厳密にルールまで考えている訳もなく、
 「勝った方が勝ちっ!」
 ぐっと拳をつきだし、当たり前のことを堂々と言ってのけた。他の兵士は「いや、そうじゃなくて…」と各々で頭を抱えるが、
 「了解っ!…んじゃあ、一本勝負だな!相手が負けるか降参したら勝ちだからな?」
 にっと笑い、
 「こんぐらいストレートな方が気持ちがいいやっ」
 至ってシンプルなガチンコ勝負を楽しむように言った。
 小柄で細身だが、その内には猛る獅子の闘志を持っている。けれどもこうしてくしゃっと笑ったときには、無邪気で愛くるしい猫を思わせた。
 ファルルのさっぱりとした態度と心意気が気に入り、トーンは承諾代わりの笑顔を見せてから同じようにコートへ飛び乗った。
 さっき拾ったまま持っていた木製の剣を両手でしっかりと握り、構える。見よう見まねな構えなだけに、どことなくぎこちなくてしっくりしていない。
 ファルルもトーンに合わせて槍を構えた。さすがに普段から使いなれているのだろうか。いかにも素人丸出しなトーンとは違い、構えているファルルの姿は美しかった。ぎこちなさは一切ない。
 その威風堂々とした姿に、トーンの体にも自然と力が入る。
 それまで呆れていた兵士たちも、二人の勢いに押される。しかし徐々に興味が出てきたのか、試合を見ようと、少しずつコートの周りに集まってきた。
 申し合わせた訳ではないが、兵士の一人が中央に立ち、審判を勤めた。
 「…それでは、これよりファルルとコーンの試合を…」
 「トーンっ!」
 「と、トーンの試合を始めるっ!」
 名前の間違いに間髪入れずに噛み付くと、審判の兵士は慌てて訂正をした。
 湧き上がる歓声。
 嫌が負うにも高まる期待。
 厳かな雰囲気はなく、あるのは躍動的な興奮と熱気。
 最初こそ、大勢の兵士と無骨な雰囲気に恐れをなしていたトーンだが、今ではすっかりこの雰囲気に馴染んでいた。むしろ、このむせ返るような熱気で、気持ちが高ぶっていた。
 審判が右手を高々と上げる。ぐっと全体が息を呑む。
 一時の沈黙。そして、
 「始めっ!」
 右手が空を切り、火蓋が落とされた。

 「たあぁぁっ!」
 トーンは勢い良く突進し、剣を振り下ろす。それを無駄のない動きでファルルは交わし、槍を横に構え、刃先を受け止めた。がんっと木同士がぶつかり、空気が震える。ファルルはそのまま槍を押し出し、トーンの体を突き飛ばした。
 「わっと…っ!?」
 重心が前にいっていた状態からいきなり後ろに押され、
 「わぁっ!!」
 無様にも、トーンはぺたんと尻餅をついた。
 観衆は「あー…」と肩透かしを食らったような声をあげた。訓練兵と見知らぬ賢者のお供…元々勝敗は見えていたようなものだが、もう少し面白い試合になるのではないかと、その場の全員が思っていた。
 しかし、
 「あんなぐらいで転ぶなんてねぇ…」
 「こりゃあ、勝ち目はゼロだな」
 その言葉通り、ファルルはトーンに向けて槍を突き出している。その表情は残念で、とても複雑そうだった。ファルルもまた、「もう少し面白い試合になる」のを期待していたのだ。
 「…悪いなっ…」
 ―ガンっ!
 響く高い音。じんじんと衝撃が手のひらにわずかな振動として伝わる。
 「…!」
 刃先はコートの地面に突き当たっていた。トーンの姿は―ない。
 ファルルは首をひねり、ぐいと視線を動かす。すると目の端が何かを捉えた。反射的にファルルは体を捻り、その場から飛び上がった。
 ―ぶんっ!
 空気を切る鈍い音がファルルの長い深緑の髪をすり抜ける。ファルルがそれまで立っていた場所。そこにトーンは剣を突きあげてきたのだ。
 ファルルは2、3、ステップを踏み、トーンとの間合いを広げる。
 とっておきの不意打ち攻撃が不発に終わり、トーンは頬を膨らませ、
 「避けないでよー」
 なんて、試合の最中にかなり無茶な注文をした。
 「…お前、早いなー…」
 尻餅をついた状態から槍を突き出すわずかな時間に、トーンは移動していた。その上ファルルの背後へ回り、再度攻撃へ転じて見せた。観衆もそうだが、ファルル自身も、トーンのことを『ただのお子ちゃま』と認識していたため、突然の機転の速さに驚きを隠せないでいた。
 「だてに毎日脱走しているからねっ!速さでは負けないよ?」
 トーンは満足そうにえっへんと胸を反らせた。



* * *



という訳で戦士君との模擬試合スタート。
トーンのスピードと機転の速さという潜在能力を表したくて…。
…でも私の文章だとちんたらしていてわかりづらいですな…

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旅戦の王女 第23話『籠の少年。青空目指して6』

 「…だが、ボウズ。ここにいたら危ないぞ?」
 一人の兵士がトーンの顔を見て半分真面目に言った。
 「さっきは当たらなかったからよかったものの、次は保障できないぞ?」
 そう言われ、トーンは足元に落ちている剣を見た。腰をかがめて剣を拾うと、手にずっしりと重く、かなりの重量感があった。手触りのザラザラ感はまさしく木のそれを思わせるのだが、思いっきり力を入れて振り下ろせば頭一つカチ割ることが出来そうだ(絶対しないけど)
 しげしげと手に持った剣を見つめるトーンに、兵士たちは危ないから帰れと口々に言ってくる。言葉自体は親切だが、つまりのところ『稽古の邪魔だから帰れ』と言いたいのは明白である。
 けれどもそこは王女。空気が読めないのは生まれついての特性。
 「僕も混ぜてっ!」
 そう言った顔はこれ以上ないほどの素晴らしい笑顔で、大きな黒目がちな瞳はキラキラと輝いていた。
 「…は?」
 一同はぽかんとした表情でトーンを見た。大勢の視線を浴びたトーンはこれを機に、小さな体で目一杯に手足を伸ばしてアピールしている。
 「…あのなぁ、ボウズ…これは遊びじゃあないんだぞ?」
 一人の兵士が呆れて声をかけるが、トーンの輝きは廃れるどころか益々輝きを増し、
 「大丈夫!やってみたいっ!」
 何をどう根拠にして『大丈夫』と言っているのかさっぱりわからない。
 兵士たちはトーンの姿を見て頭を抱えた。
 9歳か8歳くらいとも思える小柄な体。明らかに戦闘向きとは思えない深いブルーグレーのオーバーオール。伸ばした腕にはそこそこしっかりしたグローブがついてはいるが、その腕自体は細く、戦いを知らない子供の腕だった。
 兵士たちは呆れ、渋い顔をして首を横に振る。
 ぴょんぴょんと跳ねて自己主張をしていたトーンだが、さすがに気まずい空気を感じ、動きが徐々に小さくなっていく。
 トーンにとっては稽古も全部遊びなのだ。城を出たことのない幼いトーンには、いくら『危ない』と忠告されてもどれだけ『危ない』かを知らない。
 ―トーンの正体は王女・ミクロである。…ということにはまだ誰も気がついていなかったが、トーンが遊び気分でで首を突っ込んではしゃいでいるのは、皆わかっていた。
 一人、また一人と兵士たちはそれぞれの訓練先に戻っていく。トーンは帰っていく兵士たちの後姿を捨てられた子猫のような目で見ていたが、最後の一人が背を向けると、がっくりと肩を落とした。
 肩を落としたまま、トーンも元来た道へ戻ろうと踵を返した。

 「俺が相手するよ」
 一瞬、トーンはその言葉の意味がわからなかった。
 帰ろうとした背中に飛んできた一言。
 「…え…?」
 聴覚が捉えた一言を、脳がじわりじわりと染み渡るように意味を理解していく。完全に理解できた途端、トーンはその声が飛んできた方向へ勢い良く振り返った。
 最高の笑顔で。
 「本当にっ!?」
 視線の先の人物はにかっと笑って頷いてみせた。
 大柄の兵士が多い中、その人物は一際小柄で細身であった。それもそのはず。その人物はトーンと同じくらいの少年であった。
 細身だが服を着ていてもわかる、鍛えられた締まった肉体。髪は萌えた緑の色をしていて、長く伸ばしたそれを頭の高い位置で一つに結わえている。顔立ちも中性的で、けれどもにっと笑っている表情は悪戯っぽい少年を思わせる。瞳はやや猫目でつりあがっており、ブラックパールのようにはっきりとした黒い瞳であった。
 「本当に本当に本当っ!?」
 トーンはスキップとステップを織り交ぜ、跳ねるようにして少年の傍へ行った。
 「あぁ、なんか面白そうだし!」
 少年にとってもどうやら稽古は遊びらしい。いい遊び相手が見つかったと言った感じでにこにこと笑っている。
 「…おい、お前なぁ…」
 兵士たちの呆れた言葉に、少年はぶーと膨れて「いいじゃんよー」と唇を尖らせる。そんな態度の少年に、兵士たちはやれやれと肩をすくめた。どうやらこの少年、いつもこの調子らしい。
 少年は傍に置いてあった長い棒を手に取った。剣と同じ木製のようだが、少年の身長より長く、先についている刃(もちろんこれも木製)は矢じりのように小さい。
 どうやら槍を模したものらしい。
 少年はその槍を慣れた手つきで抱え、構える。
 「俺の名前はファルル。…手加減なしだからなっ!」
 にっと笑った顔には獅子のような闘志があった。


   * * *


ということで最初のゲスト!ファルルことファイさん宅の戦士君!
ちなみに戦士君もトーンが女の子だって気がついていません。
…いや、そうでないと話が進まない…;

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