祭のものぐさもったり手帳

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旅戦の王女 第47話『籠の少年。青空目指して30』

 宥めるようなコロナの言葉に、ファルルは石を飲み込んだような顔をしていたが、納得してくれたのか小さく、確かに「うん」と頷いた。
 ファルルからの同意を得られたコロナはゴーレムを見上げ、パラパラと魔法書のページをめくり出した。それまで冷静になろうとただめくっていたときとは違い、ちゃんとした目的をもってページをめくっている。
 「…魔法の源よ…すべての根源よ…」
 口の中で小さく呪文を呟く。
 「…その泉よ、我が瞳に映しませ…」
 コロナはゴーレムに意識を集中させる。感覚がみるみる研ぎ澄まされていき、まるで熱探知か何かのように、ゴーレムが輪郭のみの何か黒い影のような姿でコロナの瞳に映し出される。その黒い影の中、コロナが視線を下から這わせる。元が命を持たない石造りの建物なだけに、黒い影は冷たく、ひたすらに深く無機質である。だが、その中に一点、他の冷たい影とは違う、何か別の、更に深い漆黒とも思えるような禍々しい渦を見つけた。
 「見つけた…!」
 コロナは反射的に人差し指を突き立てる。
 「…あそこに魔力が植えつけられている」
 確信を持って呟いた先は、まさしくてっぺん。ブロック型の建物が積み重なって出来たゴーレムの顔(なんとなく、窓とドアが落ち窪んでいて顔に見える。…気がする)のブロックであった。
 「あの一番高いところを攻撃すればいいのかっ?」
 ファルルがコロナの後ろから意気込み勇んで問いかける。コロナがこくりと頷くと、
 「それは本当ですかっ?」
 巨漢を揺らしながらゴーファン隊長が二人の話に割って入り、ずずいと顔を近づけて聞いてきた。コロナは突然大男に接近され、びくりと体を震わせ、
 「…え…えぇ…そうです…」
 イマイチ頼りない口調で2、3歩下がりながらそう答えた。ゴーファン隊長がいい人なのはわかるが、やはり見た目や体の大きさから、下手に近づかれると怖い…。
 しかし当の本人はもうすでにコロナのことは眼中になく、何かを考えるようにゴーレムと、大砲を見ている。どうやら射程距離や破壊力を考えているようだ。
 「…わかりました」
 ゴーファンはコロナの方へと振り返る。
 「相手は図体は大きいですが動きは鈍い。次で確実に仕留めて見せましょう!」
 そう結論付けたゴーファンは岩を切り崩したような強面を更に強固にし、力強く言った。かなりの自信に、コロナは少し肩の荷が下りる。
 「賢者様のご協力、誠に感謝いたします!」
 熱烈な言葉にコロナは辟易しながらはぁ、とか、えぇ、などの生返事で受け流す。しかしここでゴーファンは唐突に声の調子を下げ、
 「…ですから、ここから先はどうぞこのゴーファンに任せていただきたい」
 コロナのことをこれでもかと凝視して言った。
 俺に任せてほしい…つまりコロナは手を出さずに下がっていてくれということようだ。コロナの安否を気遣ってか、それとも隊長としての意地か、どちらにせよ、場所さえ特定できたのだからあとは力任せに攻撃すれば勝てるハズである。
 「…わかりました」
 コロナはゴーファンの言葉を素直に受け取り、そそくさとゴーレムの進行方向から外れた場所まで避難する。
 「ファルル!お前も配置につけっ!」
 すっかり無防備でいたファルルは、いきなりゴーファンに怒鳴られひゃっと首をすくめる。再び怒鳴られる前に、ファルルは大急ぎで大砲を準備している兵士たちの元へと駆けて行った。
 訓練兵というものも大変なんだなと、すでに安全な場所を陣取っているコロナはぼんやりと考える。よかった、兵士の家に生まれなくて…自らの出生を喜ぶようなことを考えたあと、試しにゴーファン隊長とあの大賢者のお爺様を天秤にかけてみたら、予想以上にぐらぐら揺れる脳内天秤。それを見ながら、割と自分も大変な出生で大変な状況じゃないかと逆に落ち込んでしまった。
 ―…ナー。
 聴覚の角に何か引っかかった。一瞬空耳か何かかと思ったが、明らかに外から拾った音だと気づき、顔を上げる。
 ―…ロナー。
 ズシンズシンというゴーレムの地響きと、兵士たちが大砲やら武器やらを準備するガチャガチャという金属音。それらの雑音の中で、確かに聞こえてくる。
 ―…コロナー。
 自分を呼ぶ声。
 「っ!?」
 ハッとして脊髄反射でゴーレムの方を見た。視線の先ではゴーレムが地響きと砂埃を上げながらこちらへと緩慢な動作で向かってきている。その舞い上がった土煙の向こう側で、何かゆらゆらと動く黒い、小さな影を見つける。
 (まさか…!)
 最悪な事態を瞬間的に予想してしまい、それはあってはならないと顔を振って心の中で強く否定する。ゆらゆらとしていた小さな影は徐々に輪郭をはっきりとさせていき、
 「コロナーっ!」
 この場にそぐわない能天気な明るい声と共に、ゴーレムの足の間から黒い猫っ毛のショートヘアーをした少女の姿が現れた瞬間、コロナの最悪の予想は見事に的中してしまった。




* * *





ダラダラしていてすみませんぬ;
もっとスピード感というか、ずびずばいける小説を書きたいですねぇ;

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旅戦の王女 第46話『籠の少年。青空目指して29』

 「どういうことだよ!コロナっ!」
 白い裾を掴み、ファルルはコロナを半ば睨みつけるようにして声を荒げる。コロナはといえば、ファルルに裾を引っ張られてやや片腕を重そうにしたのの、特に気にした風もなく普段通りの様子で本をパラパラとめくっている。
 「…ゴーレムは魔力を埋め込まれた命を持たないモンスターだ」
 ページに視線を落としたまま、コロナは続ける。
 「魔法使いが命を持たない物質に魔力を植えつける、それがゴーレムだ。…魔力が植えつけられた場所を攻撃するか、もしくは植えつけられた魔力が消えるのを待つか…二つに一つだ」
 抑揚の少ない、淡々としたコロナの台詞にファルルは湧き上がるものを覚え、掴んでいた裾を強引に手前側へと引っ張り、コロナを自分の方向へと無理矢理向かせる。
 「わかってんなら早くしろよっ!」
 「今やってるっ!」
 噛み付くような言葉を互いに声を荒げて吐き出す。ファルルもコロナも互いに奥歯を噛み締めながらギリギリと睨み合う。普段のコロナを知らないファルルにわからないのも無理はないが、コロナはいつになく焦っていた。このように怒りを露にして相手を睨み返すこともなかった。
 復活した闇司祭。
 そして闇司祭が魔力を植えつけた巨大なゴーレム。
 突きつけられた課題の多さに頭痛を通り越して吐き気までしてくる。声を荒げたり表情に感情を表すことなんて滅多にないコロナだが、それだけ冷静さを失っているのだ。…落ち着こうと本のページをめくっていたが、あまり意味はなかった。
 深い緑色と漆黒の瞳が至近距離で対峙する。
 すぐ目の前までゴーレムが迫り、ずずず…と地響きが絶えず聞こえているのにも関わらず、一枚膜がかかったように、どこか遠い別の国の出来事のように思える。
 数分間。いや、もしかしたら数秒しかかかっていないのかもしれない。あまりにも長く窒息するほどの沈黙。
 「…少し…時間をくれ…」
 コロナの唇が強張るように形作り、言葉を落とした。
 それを聞いたファルルは噛み締めていた奥歯を緩めたが、今度は眉をひそめて、
 「…さっきも時間を稼げって…賢者様って、そんなに時間がかかるのかよ…っ」
 不満を口にする。
 そういえば先ほどブランク相手に戦ったときも、ファルルに対してそう言った。それを彼はしっかりと守り、勝てない相手に必死に戦ってくれていたのだ。
 目の前にゴーレムが迫っている。
 早くなんとかしたいと思っているのは、コロナだけではなく、ファルルも、今ここにいる全員が思っている。そして相手が魔力で動くゴーレムなら、当然同じ魔法を使えるコロナに期待が寄せられることは必然。しかしコロナはそれに対して何をしているかと思えば、焦る自分を抑えるようにページを無意味にめくったり、「時間をくれ」と曖昧なことを言い続けている。コロナは全然意識はしていなかったが、ファルルたちからすればまるで目の前の問題を先延ばししているかのように見えているのかもしれない。
 ふぅ…と一つ息を吐く。
 それだけで、少し重たい空気が軽くなったような気がして、いくらか話しやすくなる。頭を落ち着かせて、目の前の少年を睨むのではなく、宥めるように見つめる。
 「…大抵のゴーレムなら、さっきくらいの攻撃を受ければ再生する前に魔力が切れて動かなくなるものだ。だけどあいつは違う。魔力がどれだけ植えつけられているかわからないが、並みの攻撃ではすぐに再生するだろう。それに大きさがケタ違いだ。闇雲に攻撃していたのでは急所…魔力が植えつけられている部分を破壊できない」
 ふぅと再び息を吐く。長文は言うだけで疲れる。
 「…なんだよ…」
 コロナが息を吐いた後、ファルルが呟く。
 「…なんなんだよ、あの黒い魔法使い…あいつ、一体何者なんだよ…?」
 底知れぬ力を感じてか、ファルルはわずかに語尾を震わせる。気がつけば周りの兵士たちも二人の会話を聞いていて、あの魔法使いが何者なのか?その答えを知ろうと耳を傾けている。
 「……っ…」
 コロナはブランクのことを言おう口を開けて―そのまま空気を飲み込んだ。
 (ブランクのことを話して…どうなる?)
 ふとした疑問がコロナの脳裏を過ぎる。12年前の『闇の現事件』の魔法使い、そいつが封印を解いて現れた。それを告げて、果たしてこの兵士たちは何を思うのだろうか?
 怯えるか?驚くか?怒り狂うか?
 ゴーファンの教育を聞いている限り、怒り狂って一斉攻撃をしかけてくるのではなかろうか?ただ、それでどうなる?剣は通じないし、大砲を闇雲にバカスカ打ち込んでも、それで倒せるかどうかはわからない。
 「…あとで話す…時間をくれ」
 今必要なのは闘争心でも、怒りでも、力でもない。 
 「…本当に少しでいい。そうしたら魔力の植えつけられた位置を特定することが出来る」
 情報と、確実性である。




* * *





ファルル君との睨み合い?。
我が家にはコロナと同年代の少年がいないだけに、なんかこういうシーンは描いていてわくわくしますな…!
喧嘩するというか、本音ぶつけ合うみたいな?(もちつけ)

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旅戦の王女 第45話『籠の少年。青空目指して28』

 建物を飲み込んで出来上がったゴーレムは、ずず…と地鳴りと砂埃を起こしながらゆっくりと片足をあげる。四角い影が夜にも関わらずうっすらと地面に映りこみ、その場にいた兵士たちがひっと短い悲鳴を上げて散らばるようにして逃げる。
 ―ズドンッ!
 重たい足が地面にめり込み、地面が大きく揺れる。
 「うろたえるなぁ!かかれぇい!」
 地面の揺れに足を取られながら、ゴーファンが大声で逃げ惑う兵士たちに檄を飛ばす。その声に反応した何人かの勇敢な兵士たちが腰に下げた鞘から剣を抜き、ゴーレム目掛けて斬りかかる。しかし相手は石造りの建物。それ相手に薄い鉄の剣が敵うハズもなく、キィンと高い音を出して弾かれたり、勢い余って刃先が根元からボッキリ折れてしまったりしていた。
 ブロック型のゴーレムが動く度、兵士たちは右へ左へと翻弄される。その様子を見て楽しんでいるのか、上空からくすくす…という笑い声が降ってくる。
 「…まぁ、せいぜいがんばってよ…」
 くつくつと愉快そうに笑いながら、ブランクはふわりと夜空にかけられた見えない階段を登り始めていた。一歩一歩と音もなく緩慢な動作で登り続け、夜空にぽっかりと浮かんでいる何もない空白の前に立つ。
 コロナがそれに気がつき、
 「まて…!」
 声と共に右手を伸ばしたときには、ブランクは初めて現れたときと同じように、空白の中へと消えていった。細かな破片がまるでパズルのピースを埋めていくようにして空白を埋めていき、最後にはそこには何もなくなった。ただ夜空がそこにあるだけだった。

 ブランクがいなくなったあともゴーレムの動きは止まらない。地鳴りを起こしながら片足を上げては一歩進み、また片足を上げながら進みと、非常に重々しい動作で訓練施設の中を進んでいった。
 何か意図があって進んでいるようには見えず、ただ目の前を真っ直ぐ直進している。『歩く』ということしか命令されていない、非常に下級のゴーレムであるとコロナは認識した(大きさは下級どころではないのだが…)
 「大砲を出せ!」
 ゴーファンが声を荒げると兵士数人が武器庫へと駆け出し、がらがらと滑車を押しながら大砲を持ってきた。一人の兵士が大きな缶のような弾を両手で抱えて持ってくると、大砲の中に火薬を素早く詰め入れ、弾を装填した。ギリギリと大砲の角度や向きを微調整しながらゴーレムに標準を合わせていく。標準が合い、点火しようと一人の兵士がマッチを手に取った。
 「まて!もう少し引き付けてからだ」
 それをゴーファンが片手を挙げて制する。
 ずずず…と地面をこすりあげ、地鳴りを起こしながらゴーレムは進んでいく。あと一歩で踏まれる!という寸でのところで、
 「撃て!」
 合図と共に大砲が火を噴いた。ゴオンという鈍い音が響き渡り、ゴーレムの胸部(おそらく胸部。だと思う)に見事命中した。命中した部位が硬い石造りにも関わらず丸く抉られており、その衝撃の凄さがわかる。ゴーレムは反動で後ろへとよろけ、まるで人間が尻餅をつくように地面へと背中から倒れこんだ。
 ―ズウゥゥン…
 一際大きな地響きが起こり、土煙が舞う。
 わずかな静寂。
 ゴーレムは倒れた状態のまま動かない。
 「やった!」
 ファルルが勝ち誇ったような笑みと共にガッツポーズを決める。それにつられて兵士たちにも安堵の笑みが浮かぶ。が、
 「まだだ!」
 コロナの言葉が一瞬にして場を強張らせる。
 ―ずずず…
 息を呑む。ゴーレムはその巨体を揺らし、地面を盛大に振るわせながらブロックを変形させてよろよろと立ち上がっていく。
 「くっ…ゴーレムめ…!」
 ゴーファンは上を見上げ、苦々しく舌打ちをした。



* * *



異様にゴーファン率が高くてすみません…;
そして更新が遅れてすみません…;

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旅戦の王女 第44話『籠の少年。青空目指して27』

 万事尽きたかと思った。コロナもファルルも反射的に攻撃態勢に入って構える。勇ましく構える二人であったが、表情には確かな諦めの色が見えていた。そんなとき、
 「…!」
 ファルルが急にびくりと震え、そしてコロナの後ろへとまるで逃げるようにして隠れた。それまで闇司祭のブランクに対して臆することもなく果敢に戦ってきたとは思わない挙動に、コロナも目を丸くして驚く。が、その答えはすぐにわかった。
 「……な…」
 コロナの眼前、ブランクの後方からまるで切り崩したばかりの岩のような巨漢が、多くの訓練兵を連れてこちらに向かって慌しくやってきていた。
 「ご、ゴーファン隊長…?」
 思わぬ登場にコロナもやや後ずさりながら唖然となって呟く。
 ゴーファン隊長と訓練兵率いる兵隊はどかどかと慌しくやってきながらも、さすがにそこはモノケディア訓練施設の兵士たち。ゴーファンの指示がなくとも皆して怪しい人物―ブランクを取り囲むようにしてあっという間に陣を組む。
 大勢の兵士に囲まれ、ブランクも前後左右にわずかに視線を向けて状況を確認する。しかし慌てたり、驚いたりしている様子は一切なく、あくまでも緩慢に、あくまでも余裕であるということを見せ付けている。
 ゴーファンは一歩前に出て、ブランクを見上げる。
 「何者だぁっ!貴様っ!」
 いきなりの喧嘩腰の怒号に、ファルルはひゃっとすくみ上がる。しかしブランクの顔色は一切変わらず、余裕の笑み。
 「この訓練施設に侵入するとは、もしやモノケディア王国に仇なす愚公か!」
 大振りの剣を振り上げ、ゴーファンは強面をさらに険しくして相手を威嚇する。まだゴーファンたちにはブランクが『闇の現事件』の魔法使いであるということを知らないらしい(もしも知っていたらそれこそ火山の如く怒り狂って間髪いれずに一斉攻撃に掛かるに違いない)
 「隊長、こいつは…!」
 コロナがブランクのことを説明しようとした、そのときだった。
 「あっははははははははっ!」
 夜の訓練施設に響く、高らかで愉快そうな笑い声。張り詰めた場の空気を一蹴するかのごとくよく通る声で、腹の底から夜の帳を吹き飛ばすのではないかと思うくらいに晴れ晴れと笑っている。
 陣を組んでいた兵士たちはぽかんと口を開けて呆気に取られていた。先ほどまで怒りに顔を強張らせていたゴーファンも目を点にさせている。そしてコロナも、コロナの後ろに隠れていたファルルも、驚きのあまり声も出なかった。
 「あはははっ…あー…おかしい…」
 額に手を当て、それでもおかしいのか口のなかでくつくつと笑っている。
 「愚公…か…あっはは!確かに」
 肩を上下に震わせ、腹を抱え、ブランクは笑っていた。それまで余裕を称えた冷笑が多かった彼が、初めて表情を崩した瞬間だった。
 「な、何がおかしいっ!」
 呆気に取られていたゴーファンだったが、すぐに我に帰り、ブランクに噛み付く。しかしブランクは聞いていないのか、はたまた無視しているのか、あはははと笑い続ける。そして笑いを堪えながら、静かに言葉を落としていく。
 「…でもさ、今のモノケディア王国があるのは俺のおかげだから…愚公って言うのはちょっと…言い過ぎ…だよ…ね…?」
 ラストの言葉がまるでスローモーションのようにゆっくりと響く。大気が震え、そして凍りつく。一瞬にして、その場の温度が急激に下がっていく。
 「…愚公なら…」
 ブランクは静かに右腕を上げる。その指先は誰に向けられている訳でもなく、兵士たちが生活しているブロック型の建物に向いている。
 「…!」
 その指先に禍々しい闇の力が灯るのを、コロナは肌で感じ取った。今までの何もない空白ではない、明らかな闇の力。ふわふわと集まっていた力が指先から溢れ、直後、一筋の光となって建物を直撃する。
 何が起こったのかと誰もが身構える。―が、何も起こらない。
 「な、なんだよ…こけおどし…って奴か…?」
 ファルルがコロナの背中から顔を出して呟いた。そのとき、
 ―ゴゴゴ…
 地割れのような深い、地の底から響くような唸りが地響きと共に鼓膜を震わせる。
 兵士たちも驚いてたじろぐ。ゴーファンが落ち着くようにと声を張り上げ、ファルルもコロナの背中から出てきて辺りを不安そうに見回す。
 ―ゴゴゴ…
 地響きがより一層ひどくなり、そしてそれは姿を現した。
 「…なっ…!」
 コロナは息を呑んだ。
 ブランクの闇の力を当てられた建物が、ゆっくりと、まるで自らの意志を持っているかのように地面をずって動き出し、まるで積み木を積み上げていくように、少しずつ形を形成していく。
 「…これくらい…しなくちゃね…」
 ブランクが冷笑と共に呟いたときには、ブロック型の建物はゴーレムを思わせるような歪な巨人となり、コロナたちの前に現れていた。





* * * 






気合いれて長めです。
ようやく第二回戦です;ブロック型の建物はこういう伏線で…(え?)
いえ、何も考えていませんでした;
ほぼ成り行きです;(おいこら)

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旅戦の王女 第43話『籠の少年。青空目指して26』

 コロナが戻ってきたとき、ファルルによる激しい攻撃が続いていた。ファルルがまるでゴムボールのように地面を蹴って跳ね上がり、ブランクに槍を振りかざして突進する。しかし刃先がブランクに当たる直前で弾かれて吹き飛ばされ、また地面を蹴って突進していく。それが休みなく行われていた。
 戦況はあまりにも一方的だった。ファルルの表情には疲労の色が見え、動きも段々と鈍くなってきている。しかし反対にブランクの表情は先ほどからまったくと言っていいほど変わらず、余裕の笑みすら浮かべている。まるで手まりでも突いて遊んでいるような、そんな様子だった。
 「ちっ…きしょうっ!」
 ファルルは地面を蹴って跳ね上がる。「時間を稼いでほしい」というコロナの言葉を頑なに守り、諦めず果敢に戦ってくれている。
 その様子を見た瞬間、コロナは焦燥感に駆られてページを一目散にめくった。ぱらぱらとページをめくり、目当ての文章を見つけて字面を目で追う。そして口の中で小さく、反芻するように唱えた。魔法書を通してピリピリと何か力が感じ、手のひらに熱が帯びていく。
 「避けろっ!ファルルっ!」
 コロナの叫びに、ファルルはハッと気づき、反射的に地面を蹴ってブランクから遠ざかる。その途端、ブランクの真下が放射上に光を帯び、地面から巨大な火柱が噴出した。
 「…!」
 ごおごおとまるで生きているかのように唸りをあげ、炎はブランクを一気に呑みこんだ。赤々と燃え盛る炎が天へと向かって火の粉を巻き上げている。
 「よっしゃ!」
 ファルルはまるで自分のことのように喜び、ガッツポーズをした。しかしコロナの表情は冴えない。
 「?どうしたんだよ、コロナ」
 そんなコロナにファルルも気づき、顔を覗き込んでくる。
 「倒せたからいいじゃん!凄ぇーなっ!炎がごおーってさ!」
 無邪気で素直なファルルの感想に、コロナは少しだけ頬を緩める。けれどもそれは苦笑のようになってしまい、すぐにまた顔を強張らせた。そして燃え盛る炎を怪訝そうに見る。
 (…おかしい…こんな簡単なハズない…)
 12年前に世界中を震撼させた『闇の現事件』の首謀者。大勢の兵士や魔法使いが束になっても敵わず、ついには『人柱』を用いて一人の少年を犠牲にしてようやく封印できた闇司祭。
 それを、一介の賢者であるコロナの魔法で倒せるものなのか?

 そんなコロナの不安は、最悪の形で的中してしまうことになった。
 「…なっ…!」
 それまで大喜びしていたファルルの口から、ひっくり返った声が出る。
 ―ごおぉ…
 ブランクを飲み込んでいた火柱が中央から二つに割れていくのだ。いや、割れているのではない。―なくなっているのだ。ブランクが夜空から現れたときのように、格子状の亀裂が揺らめく炎に入り、細かな破片となって消えていく。そして、
 「…やっぱり、そこら辺の魔法使いとは違う…ね」
 火傷一つ負っていない、それどころか汗一つかいていない、余裕の笑みを称えたブランクが、炎の間から現れた。
 「…そんな…非物質の炎まで…」
 コロナは唖然となって呟く。
 物理攻撃が弾かれ、無効になるのでは…と思い、炎の魔法をかけてみたのだ。しかし、ブランクが言う『空白』に物質と非物質というのはまったくもって関係がなかったようだ。




* * *





ブランク君は最強なんだよ!という話です。
たとえ公園のベンチで水筒の蓋が開かなくて奮闘していても!(おい)

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旅戦の王女 第42話『籠の少年。青空目指して25』

 全速力で駆け抜け(と、言っても走り慣れていないだけにドタドタという感じではあったが)駐車してあった四輪駆動車にたどり着く。そしてコロナは休む間もなく助手席の扉を開け、一瞥し、
 「…あれ?」
 まるで肩透かしを食らったような声をあげた。
 「…確かに城を出たときは助手席に置いていたのに…」
 ぶつぶつと呟きながら記憶を掘り起こしていく。急いで戻らないとファルルが危険だ。―そう思いながら忙しなく座席の下などを見るのだが、目当てのものが見つからない。
 「…ねーねー」
 焦りを感じていたコロナの横から、やたらとのんきな声が投げかけられた。ん?とコロナが横目でちらりと見ると、いつの間に移動したのか、トーンが後部座席から顔を出して覗き込んでいる。
 「もしかして、これ探してるの?」
 そう言ってトーンは後ろからうんしょと重たそうに、あるものをコロナに差し出して見せた。
 「…あ!」
 それは紛れもなくコロナが探していたもの―魔法書であった。
 コロナはトーンからやや強引に魔法書を受け取り、ぺらぺらと忙しなくページをめくる。
 「僕が車に乗ったときに助手席に置いてあったでしょ?…だから座るとき邪魔だなーって思って、後ろの方に置いておいたの」
 コロナの様子を見ながらトーンは相変わらずのんきな口調でのんきなことを話す。そういえばトーンが車に入り込んだときからずっと助手席に座っていたのだから、こんなに分厚い本の存在に気づかないハズがない。冷静に考えればそうなのだが、これがコロナの悪い癖。焦ったり慌てたりすると周りのことが見えなくなる。
 「…よし…」
 ぱたんと本を閉め、コロナは確かな手ごたえにうんと頷く。戦闘用の魔法なんて習得したとき以来ほとんど使っていないが、必要な呪文や手順は覚えているし、何よりこの魔法書を媒介としていれば十分戦える。
 そのことを確認したコロナは助手席から降り、ばたんと後ろ手で扉を閉めた。
 「あ、待ってよっ」
 先に降りたコロナに続こうとトーンも外に出ようと向きを変えた途端、
 ―ばたん
 それまで開け放していた扉が勢い良く閉まった。
 「え?」
 突然の出来事にトーンの目が点になる。「どうして?」と言った様子で、トーンは窓越しにコロナの顔を見上げる。そこにあるのはいつものコロナの、愛想なんて全然感じられない眠そうな半眼の表情。
 「……ころ…な?」
 上目遣いでおそるおそる問いかけてみる。するとコロナの唇がわずかに動き、形作る。
 「大人しく待っていてください」
 それだけをきっぱりと言い放ち、コロナはくるりと踵を返し、元来た道をまたドタドタと駆けて行く。
 「ま、まって…!」
 トーンは反射的に追いかけようとし、
 ―ごんっ
 ガラス窓に額を打ち付けた。
 「…痛い…」
 トーンは額を押さえ、半分泣きべそをかきながら、それでも追いかけようとドアノブに手をかける。しかしどんなに動かしても、
 「あれ?」
 押しても引いても、
 「あれ?あれ?」
 扉はびくともしない。
 突然の出来事に、トーンはぽかんと口を開けて呆然と座り込む。しばらくはどこか冷めた様子で座っていたのだが、徐々に心の奥底から何かがふつふつ湧き上がってくるのを感じ、身を震わせる。そしてそれは喉元まで湧き上がり、トーンが口を開いた途端、
 「コロナの…馬鹿ああぁぁぁっ!!」
 叫びとなって噴出した。



* * *



置いてけぼりの王女です。
もう少し短くていいなと思ったのですが、あれも付け加えなきゃ、これも付け加えなきゃと思ったら長く…;だからいつまで経っても終わらないのですよな…;
次から再びバトルシーンに入る予定です。

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旅戦の王女 第41話『籠の少年。青空目指して24』

 ファルルは再びブランクの元へ一直線に駆け抜けていく。そして地面を蹴って飛び上がり、槍を横へ凪いだ。ぶんと空気が震える音がし、しなった槍がブランクの脇腹を捉える。が、
 ―ガインッ!
 やはり当たる直前で何かに阻まれ、その反動で再びファルルは吹っ飛ばされた。綺麗に足から着地したファルルは槍を構えなおし、
 「あいつどうなってんだよっ!」
 誰相手にという訳でもなく吼えた。
 その叫びを聞いていたのか、先ほどからまったくと言っていいほど動いていないブランクがふふ…と微笑む。余裕のある、非常に嫌味ったらしい笑みに、思わずブチリと何かが切れそうになる。
 それはファルルも同じようで、奥歯をぎりと噛み締めている。もちろんトーンもムカときたようで、
 「わかんないんだよっ!近く行ったらドーンでバーンでドギャーンだもんっ!」
 謎の擬音とジェスチャーを交えて音量全開にして叫んだ。なんて言っているのかさっぱりわからないが、言いたいことはなんとなくわかる。
 「…おそらく何かバリアのようなものでも張っているんだろう…」
 目に見えないブランクの力。どんな攻撃も必ず手前で弾かれ、投げた物は跡形もなく消されてしまう(あやうく俺も消されそうになった)…このままじゃまともに攻撃が出来るどころか、近づくことも出来ない。
 コロナはブランクを覆っている力を見極めるため、全神経を集中させる。知識に精通した賢者なだけに、魔法の分析は得意の内。な、ハズなのだ。ハズなのだが、どうにもその力を分析することが出来ない。神経をこれでもかと研ぎ澄ませ、一種の無我の境地まで辿り着いてみるのだが、わからない。放っているオーラ自体は禍々しい闇の力そのものなのだが、すべてを弾いている力の根源は闇とはまた違う。強いて言えば―何もないのだ。
 強大な力があるハズなのに、おかしいほど覆っている力は静かなのだ。光も、闇も、何もない。
 (…これが…『空白(ブランク)』なのか…)
 眉を潜め、ブランクを睨みつける。
 「…どうしたらいいんだよ?」
 ファルルが苦々しく呟く。もうすでにいつでも駆け出せるよう、いつでも槍が突き出せるように構えている。ただ、どう駆け出せばいいのかがわからないでいる。
 「………」
 コロナもどうしようかと思っていた。小手先が通用する相手ではないし、下手な心理戦も効きそうにない。ではどうする?何が出来る?
 見えない力相手にして戦えるか?―限りなく、NO
 見えない力相手から逃げることが出来るか?―ほとんど、NO
 もう諦めて降参してしまうか?―論外。
 トーンだけでも逃げてもらおう、と捕まっている間はそう思っていた。しかし今、ブランクを足止めするような荷物…人質はない。もしもここでトーンが逃げ出したとしたら、例え四輪駆動車で逃げることが出来たとしても、それを簡単に見過ごすハズがない。話を聞いている限り、ブランクの目的は明らかにトーンなのだから。
 だとしたら?答えは、
 「…俺が魔法で対抗してみる。それまで少し時間を稼いでいてくれ」
 前進のみ。
 幸い、魔法書は走れば数秒で手に入る位置にある。空白と言えども、魔法に変わりはないハズだ。物理的攻撃が効かないのならば、魔法を試してみる価値は十二分にある。
 「わかった」
 承諾したファルルは勢い良く地面を蹴って駆け出した。それを横目で確認してコロナも立ち上がる。そしてトーンの手を握り、
 「行きますよ」
 「わっ…!」
 トーンに有無言わせず、強引に手を引っ張った。



* * *




やっぱりアクションって難しいですよね…と思ってしまったり…臨場感ある小説を書いてみたいです…。
ってか『籠の少年。青空目指して』っていつまで続くんだっ!?;(がびん)
なんだか30、40になっても終わらない気がして怖いです…;

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旅戦の王女 第40話『籠の少年。青空目指して23』

 「ファルルっ!」
 トーンも気づいて呼ぶ。するとファルルは振り向き、こちらを見てにっと余裕の表情を見せ、
 「悪いっ!これ取りに行ってたらちょっと遅くなった!」
 まるで約束の時間に遅れたと言っているかのように謝罪し、片手に持っている槍を軽く振ってこちらに見せた。練習用の木製のものではなく、銀色をした刃先が入った実践用の槍であった。夜空で少し見づらいが、柄の部分が緑色で幾何学的な装飾が施されているあたり、どうやら近衛兵支給のものではなく、彼個人の私物らしい。
 しかし問題はそこではない。
 「…ふぁ、ファルル…お前…」
 コロナが疑問を口にしようとした瞬間、ファルルは再びブランク向かって駆け出していた。風を切って駆け抜け、十分にスピードに乗ってから地面を蹴り上げて、ブランクの顔の高さまで一気に飛び上がる。宙を滞空したわずかの間にファルルはキッと鷹の如く人体の急所を見定め、そこ目掛けて槍を勢い良く突き出す。
 ―ガキンッ!
 しかし刃先がブランクに触れる前に、何か見えない壁によって阻まれる。ファルルは力を入れて少しでも刃先を届かせようとするが、刃先は食い込むどころか逆に押し出され、まるでバネに弾かれたようにファルルの体は遠くへ吹っ飛ばされた。
 「…くっ!」
 ファルルは体を捻り、受身を取って地面に着地する。まるで高いところから落ちたようなしなやかな身のこなしに、コロナもトーンと唖然とする。が、
 「ど、どうして…?」
 コロナは先ほどから感じていた疑問が解決出来ずにいた。本人が声の届く範囲に来たことを幸いに、言いたいことを言おうする。しかし予想以上に的確な言葉が見当たらず、あまりにも漠然としたことを聞いてしまっていた。もちろん本人でもよくわかっていないことが相手のファルルにわからるハズもなく、
 「…は?」
 ファルルはハテナマークをたくさん浮かべてと首を傾げた。説明不足であることは明白だったので、まだ的確な言葉ではないと思ったが、コロナは思ったことを口にしてみた。
 「…なんで…ファルルが戦ってるんだ…」
 赤の他人なのに…と心の中で付け足す。
 先ほどファルルが旅に同行したいと言ったとき、きっぱりと口にはしなかったものの、コロナは断ったのだ。つまり彼は仲間ではない。こうして加戦する義理も、義務も、何もないハズなのだ。
 しかしこれを疑問に思ったのはどうやらコロナだけのようだった。
 「なんでって…」
 ファルルは信じられないという顔でコロナを見る。それから大きな漆黒の瞳をぱちぱち数回まばたきさせ、
 「…友達が困ってるの助けたいってだけなんだけど…」
 ちょっと困ったように呟いた。
 「………」
 コロナには正直信じられなかった。
 さっき会って少し話しただけの、それもこちら側の態度は最悪だった。それなのに友達、ときっぱり言い切れてしまうのはどういう神経をしているのだろうか?
 「…お前…」
 なんて言おうと思ったのかわからないが、喉を突いてでた言葉は飽きれた様な口調をしていた。馬鹿か?と言おうか、アホか?と言おうと一瞬迷ったとき、
 「そうだよっ!」
 すぐ後ろから聞こえてきた声にコロナはぎくりと振り返った。するとトーンがやたらとハイな様子で拳をぶんぶん振り、
 「ファルルもコロナも皆友達っ!」
 大きく、力強く答えた。
 ファルルもにかっと笑う。
 二人には何か通じ合ったものがあるようだが、コロナにはさっぱりわからなかった。
 相手は闇の根源や闇司祭と言われて恐れられている、強大な魔法使い。そんな奴相手に、どうして見ず知らずの相手を助けるために飛び出して来られるのだろうか?
 (…まさか…トーンがミクロ王女だと…?)
 一瞬嫌な考えが脳裏を過ぎったが、ファルルの様子から見てもその素振りは一切ない。意図的に隠しているのかもしれないが、(失礼だが)あまり嘘が上手なようには見えない。
 コロナがあれこれ考えを巡らせている間に、ファルルは再び駆け出していた。



* * *




長らくお待たせしました…;
授業がまた始まりましたので、ちみちみ小説書いています…。
ファルル君の性格がこれで合っているか不安になってきます;
眠気に勝てたらもう一話くらいアップしておきたいところです。

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