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祭のものぐさもったり手帳

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旅戦の王女 第56話『盗賊を拾った日2』

 「なぁ、次はどこ行くんだ?」
 ファルルがコロナの持っていた地図を見下ろしてそう聞いてきた。
 あぁ、そういえば説明がまだだったな、と思い、コロナはこの先にある『久遠の泉』についてと、そこで休憩と泉の水の採取を行うことを伝えた。
 「へぇー…そんな泉あるんだぁ…」
 訓練施設育ちが長いせいか、ファルルもトーンに負けず劣らず世間知らずらしい(トーンと一緒に迷子にでもならければいいけど…)初めて聞いた地名と効能に、半分納得したように頷いた。
 「わかったか?」
 「うん」
 コロナの確認に対し、ファルルは大きく頷き、
 「ところで俺たちって結局、何しに行くの?」
 笑顔でそう言った。

 トーンとコロナは気性の違う、似たところがまったくない二人であるが、このときばかりは、この瞬間だけは、二人同時に盛大にコケた。
 「…え…えぇ??」
 起き上がりながらトーンは訝しげな声を上げる。コロナも尻餅ついた状態でファルルの顔を「えー…?」と見上げた。
 「な、なんだよ!だって二人とも言ってくれなかっただろ!?」
 二人のオーバーリアクションを受け、ファルルは困惑したように言う。
 「『久遠の泉』ではあれだろ?休憩と、水取ってくんだろ?…でもさ、なんでそんな水使うのかなーとか…そもそも俺たちってどこ目指しているんだろうなぁって…ちょっと思って…そのぅ…」
 終いには聞いた自分が悪かったのでは?と言う様に、言葉尻が小さくなる。
 申し訳なさそうにチラチラとこちらの様子を伺うファルルに、はぁとコロナはため息をついて立ち上がる。
 「…いや、これは俺たちが悪い…」
 せっかくの旅の共なのに、旅する理由がわからないのはおかしいことだ。ファルルはあの訓練施設から出たくてコロナたちに着いてきた訳だから、まさか今更断るということはないとは思う…が、ファルルにはそれを聞いて、自身で旅に出るか否かを決定する権利がある。説明しておかねばなるまい。
 「…わかった、説明する」
 コロナの一言に、ファルルの表情がぱぁと明るくなる。うんうんと頷き、早くも話を聞く体勢に入っている。と、
 「あ…」
 トーンと目が合った。なんとなく、気まずい雰囲気になる。
 旅の経緯を説明するには、どうしても白の王女・ミシロの名前を出さなければならない。…下手したら、トーンが黒の王女・ミクロであるということも…。
 「…僕、ちょっと川で手洗ってくるねっ」
 ぱっとトーンは笑顔を作り、そう言ってたたっと川へ走り出してしまった。
 「…?…なんだぁ?」
 ファルルはきょとんとした様子でトーンの後姿を見送る。
 「………」
 まだ、抵抗があるのだろう。
 ミシロの話を聞きたくない―そう拒絶しているように見えた。
 聞いても辛くなるだけだろうし、今トーンは精一杯強くなろうとしている。あえてここで感傷に浸らせる理由も意味もない。
 「…じゃあ、いいか?」
 まだトーンの背中を見ていたファルルに、コロナは切り出した。
 「あ、うん」
 ファルルはコロナの方に向き直り、近くにあった手ごろな大きさの石に腰掛ける。コロナも同じように腰掛け、向かい合った状態になった。ふぅと息をついて、さてどこから切り出すべきかと少し考え、
 「…モノケディア王国の白の王女…ミシロ様についてだが…」
 話し始めた。

 「…そうなんだ…ミシロ王女様が…」
 事の起こりを知り、愕然とした様子でファルルは呟く。
 ファルルにはミシロ王女が眠りについたこと、王の命令でミシロ王女を起こすための方法を探すということを話した。そして一応、コロナが大賢者の孫であることも。
 「でもすっげーな、コロナ。大賢者様って言ったらアレだろ?…凄いんだろ?」
 何が凄いのかさっぱりわからないが、でもそうだと言っておく。
 「…この年で賢者なんて俺ぐらいだろうから、一応言っておく。…けど、言いふらさないようにしてくれ」
 「え?何で?」
 ファルルのきょとんとした顔に、コロナははぁと何度目かのため息をつく。
 「…事態によって、話していいときと悪いときがある」
 「例えば?」
 「た、例えばって…」
 間髪入れないファルルの合いの手に少々戸惑いながらも、コロナはうーんと例題を考える。そして、
 「…大賢者に昔ひっどいことされて、すっごい恨みを持っている奴がいて」
 「うんうん」
 「そういう奴に俺がその大賢者の孫だってバレたら…どうなる?」
 「ヤバイな」
 「そういうことだ」
 的確な例題により、ファルルと見事な会話のキャッチボールが成立した。
 結構長い間二人で向き合い、話が前後したり重複したりしながらも、
 「…そっか、じゃあミシロ王女のために、旅をしている訳だな?」
 なんとかファルルに旅の経緯が説明できた。
 うん、と頷いてやるとファルルは緊張が解けたように、ふぅーっと大きく伸びをする。なんとなくファルルの動作一つ一つが猫を思わせる。ぐっと伸びきったファルルは全身の力を抜き、コロナの方を向いた。
 「…これから三人でがんばろうな!」
 にかっとした眩しい笑顔を見せてそう言った。
 「………」
 旅の目的、コロナの素性については話した。―が、トーンのことは結局話さなかった。トーン自身が説明の場から逃げたのは、もちろんミシロ王女のことを聞きたくなかったからであろう。それと同時に、まだミクロ王女には戻りたくない、というのも感じた。
 だからファルルには申し訳ないが、もう少し、彼女については黙っておくことに…
 「コロナぁっ!ファルルぅっ!」
 突如、掠れた叫び声が聞こえてハッとファルルとコロナが振り返る。
 「トーン!?」
 ファルルが次の瞬間には川に向かって駆け出していた。ワンテンポずれてコロナも後に続く。
 「トーン!大丈夫か!」
 ファルルが声をかけたとき、トーンは少し上流のところで半泣きで立っていた。グスグスと肩を震わせて泣いている。ファルルがトーンの元へ駆け寄ると、トーンは鼻をぐずぐず言わせながら上流を指差し、
 「死んじゃう!死んじゃう!」
 なぜだかそう喚いて両手をぶんぶんと乱暴に振り回した。
 「…死ぬ?誰が?」
 ファルルがそう聞くが、トーンは詳しいこと言わずに泣き喚く。このままでは埒が明かないと思ったファルルは、トーンが指差した方向へと向かって駆け出して行った。そしてファルルの姿が小さくなった頃、ようやくコロナがのてのてと遅い足取りでやって来た。そして死んじゃう死んじゃうと泣き喚くトーンを見つけ、駆け寄る。
 「…死んじゃうって…」
 パッと見たところ、トーンには致命傷どころか小さなかすり傷一つない。むしろこんなにビービー泣いているのだから、『死んじゃう』のはトーンではなさそうだ。
 「…いいから落ち着いてください。誰が死ぬと言うのですか?」
 そうコロナがトーンに問いかけた、そのときだった。
 「うわあああぁぁっ!」
 上流から聞こえた叫び声。
 「ファルル!?」
 ただ事ではないことを感じ取り、コロナは川原の砂利道を駆け出す。普段の運動不足もさることながら、やっぱりこの白い長衣はとても運動向きとは言えない。
 川を上っていくと、少し大きめな岩があった。ファルルの半身がそこから見えている。
 「ファルルっ!」
 コロナが大きな岩場の影を除き、
 「…!」
 目を疑った。
 だらり力なく項垂れた四肢。血と泥で汚れて固まった銀髪が、無数に傷が入った頬の張り付いている。衣服はどれも血と泥で汚れていて…まるで死んでいるように、その人はそこにうずくまっていた。



* * *



いえい、ということでようやくファルル君に旅の経緯を説明できました。
なんだか会話ばっかりになってしまったような…;(うむむ;

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旅戦の王女 第55話『盗賊を拾った日1』

 「…く…」
 全身が、痺れて動けない。あまりの痛さに頭がぼんやりしてきて、目の前の景色が二重に見える。
 「…まっ…たく…」
 言葉と一緒に血と痰が混じったものが吐き出される。口の中を切ったらしい。
 感覚がだいぶ麻痺してきた腕を突っぱね、なんとか上体を起こす。直撃は免れたが、その反動でこんな遠くまで吹っ飛ばされてしまった。その際、あちこちぶつけて擦り付けて全身がとっても痛い。そう思って腕を見たら、少し青あざが出来ていた。
 「…ザマァ…ねぇでサァ…」
 口の端から垂れた血と頬についた泥を腕で乱暴にぬぐいながら、苦々しく吐き出した。



   * * *



 訓練施設から離れたコロナたちは、たまたまた見つけた川原で休んでいた。
 「………」
 コロナは地図と魔法書を開き、それぞれを見比べる。
 「……あと一時間というところか…」
 次の目的地、『久遠の泉』までの距離を確認する。
 『久遠の泉』はこの地方では割と有名で、万病に効くとされている。その効果は学問的にも証明されていて、なんでもあの一帯の地盤には元々強い魔力が宿っており、それが水に溶け込んで湧き出ているらしい。水自体に魔法が宿っているのだから、そりゃあ効果があるのも頷ける。
 コロナが持ってきた魔法書にも、『久遠の泉』から湧き出た水が必須であると書いてあった。
 ―…突然眠りについたモノケディア国の白き王女・ミシロを救うためには。
 もちろんこの魔法が効くかどうかはわからないが、何はともあれ持ち帰っておいて損はない。
 それに『久遠の泉』には小さいが、村がある。
 『久遠の泉』を守るための、質素だがとても穏やかな村人が住んでいると聞いている。そこで体を休めておくべきだろう。
 何せ訓練施設を出てから、
 「とりゃあ!」
 コロナの背後で、威勢のいい声と共にベキバキと何かが折れるような豪快な音が聞こえてきた。
 「やったぁ!やったよ!」
 「すげーな、トーン」
 無邪気に喜ぶ少女の声と感心するような少年の声。
 コロナはゆーっくりと、ギギギと油の切れたゼンマイのように顔を後ろへと向けた。
 そこには、大きなハンマーを構えたトーンと、長いエメラルドの槍を構えたファルルが立っていた。二人の間には何かの残骸らしきもの。それを見下ろす二人の笑顔はとっても笑顔。
 …二人とも、訓練施設を出てからずっとこんな調子だ。
 「あ、コロナー!」
 視線に気がついたのか、トーンがハンマーをぶんぶん振りながらこっちへと向かってくる。その光景に一種の狂気を覚え、コロナの腰は自然と後ろへと退いた。
 「あのね!あのね!凄いよ!僕、一人で倒したんだよ!?」
 ハンマーを得意げに振りかざしながら、トーンはえっへんと胸を反り返らせる。「一人で倒した」というのはあの残骸のことだろう。一国の王女としてそんなんでいいのか?とか、ますますお転婆に拍車が掛かったとか、色々言いたいことはある。が、邪険にしてはまずいと思い、
 「…はぁ、よかった…」
 ですね。と言おうとした瞬間、
 ―ドスッ!
 コロナの顔のすぐ横を、槍が一直線に貫いた。
 一瞬、何が起こったのかわからず、コロナもトーンも動きが止まる。
 数秒の静寂。ピーヒョロロ…と遥か空の上で鳥の鳴く声が、静まり返った大事に降ってくる。
 「……あっぶなかったぁ…」
 口火を切ったのはファルルだった。
 いや、それは俺の台詞だろ、と安堵のため息をつくファルルに対し、コロナは突っ込みを入れたくなったが、ふと視線を下ろし、驚く。
 地面に刺さった槍の切っ先に、獣なのか植物なのかよくわからないものがあった。目がぎょろりとしており、手と思わしきものからは鋭いナイフ状の爪が生えていた。
 ―モンスター…そんな形容詞がふさわしい生き物であった。その生き物も、刺された衝撃でびくびくと痙攣を起こしていたが、やがて動かなくなった。動かなくなったものからシュウゥと煙状の魔力が抜ける。
 「…こいつ、後ろから襲い掛かろうとしてたぞ?」
 ファルルが槍を引き抜きながら、コロナを見下ろす。注意力がおろそかになっていたことを実感させられ、背筋にひやりとしたものが通る。
 「でも、何なんだろうね?この変な生き物…さっきからいっぱいいるけど…」
 トーンは不思議そうに首を傾げた。

 訓練施設を出てから少し経った頃、異変は静かに起きた。
 車で平地を走っていると、突如、見たことない小動物のような変な生き物がコロナたちに襲い掛かってきたのだ。あわや車に飛び込んで来るかというそのときに、ファルルが瞬時に撃退した。
 何事かと思い、車を降りて生き物を見たところ、何の生き物かわからない。そもそも動物なのか植物なのかも分別つかないような謎の姿をしていた。そして解明される前に、倒された生き物は動かなくなり、同時に魔法がシュウゥと抜けて消えていった。
 そのような生き物がこの川原に着くまで何度となく現れ、その度にファルルと、そしてトーンが撃退していった。…そのため、訓練施設を出てからトーンのハンマーの腕前はとんでもなくレベルアップした。
 コロナは倒された生き物をじぃと見た。かすかに残った魔力を感じ取り、眉間にシワが寄る。
 「何かわかった?」
 トーンがコロナの顔を覗き込む。トーンの問いかけに、コロナは少し間を空け、
 「…おそらく、ゴーレムの類…ですね」
 そう答えた。
 「ゴーレムって…あのでっかいアレ…?」
 「…いや、違う。もっと弱いものだ」
 ファルルの当然の質問にコロナはすかさず答えた。
 訓練施設に現れたゴーレムは桁違いに強かった。魔力のある位置を特定するのも難しかったし、なにより強度、体力、攻撃力、ともに次元が違っていた。…さすがに12年前の闇司祭が直接操っただけあるが…。
 「…おそらく、そこら辺の小動物や草木が強い魔力を浴びてゴーレム化したものだろう。…むしろ、突然変異のモンスターとでも言ったほうがいいかもしれない」
 コロナの説明に、ファルルもトーンもへぇと頷く。
 …しかし、この平地に今までこんな生き物はいなかった。本来ならば、このようなモンスターはもっと北の方や森の奥地など、魔力が強い部分には生息している。それがこんな何もない平地に現れるとは。
 「…これも…なのか…」
 チラリとちらつく、世界を揺るがした巨大な闇の存在。
 奴が通ったところに強い魔力が撒かれ、それにより突然変異を起こしたのならば…説明がつく。
 自分たちは意識せず、闇司祭の足跡を追っている…そんな気がした。



   * * *



ということで第三章!
モンスターが出てきてようやくRPGって感じです!

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旅戦の王女 第54話『籠の少年。青空目指して37』

 四人乗りの車に大きなハンマーを乗せ(トランクに入りきらなかったので、車の上に乗せて紐でくくりつけた。…いいのか、これで?)ようやく準備が整った。
 コロナはもちろん運転席に座り、トーンが助手席に乗り込む。そして新しい旅の道連れ―ファルルは後部座席に座った。全員が入り、忘れ物や足りないものがないかを確認し、コロナは静かにエンジンをかけた。ブブブ…と車体が小刻みに揺れ始め、エンジンが温まっていく。
 「じゃあねーっ!バイバーイ!」
 トーンは窓を開け、大きく身を乗り出して見送りに来た兵士たちに手を振る。さすがに危ないので左手を伸ばしてトーンの首根っこを掴み、
 「むぎゃっ」
 無理矢理座らせた。
 「も?…コロナぁ??」
 恨めしそうな視線を左から右へ受け流しつつ、コロナはブレーキを静かに離す。車は静かに動き出し、門の前まで静かに進んだ。車が門手前まで移動すると、待機していた兵士が大き目の取っ手をガラガラと回す。すると訓練施設の象徴でもある巨大で頑丈な門が、入ってきたときと同じようにゆっくりと開いていく。それを滑るようにして車は走り抜けた。
 少しエンジンを踏めば車はどんどんと速くなり、訓練施設はみるみる遠くなっていく。
 高い競りあがった壁が、徐々に小さくなっていく。
 ファルルは後部座席の窓を開け、少しだけ顔を出す。緑色のポニーテールが風にばさばさと弄ばれる。後方にはだいぶ小さくなってしまった訓練施設があった。
 「………」
 ファルルは右手を左胸に当て、目をゆっくりと閉じた。
 自由はなかったけれども、あんなに出たいと思っていたけれども、言い知れない物悲しさがファルルの胸に溢れていた。さよならの代わりに、一緒に強くなろうと共にがんばった兵士や隊長たちに、心の中で、静かに敬意を表した。
 そして目をゆっくりと開け、空を仰ぎ見る。
 「…うわぁ…!」
 壁に隔てられない、真っ青な空が頭上一杯に広がっていた。
 白い雲が流れ、少しだけ肌寒い風が吹き抜けていく。どこまでも広がる緑の大地。端を縁取る高い山々。そしてその山の先まで、地平の先まで、続いていく無限大の青空。
 「すげぇ!本当の青空だ!」
 ついに手に入れた自由を全身で感じ、ファルルは叫んだ。

 車はエンジン音を響かせ、平地を進んでいく。
 「…ねぇ、ファルル」
 助手席に座っていたトーンが後部座席の方を向く。
 「ずっと不思議だったんだけど、どうしてそんなに外に出たかったの?」
 確かに訓練も大変だと思うけれども、隊長さんも兵士の皆も優しかったし…と、トーンはもごもごと言葉をつむぐ。運転をしていたコロナも視線は前にしたまま、耳を傾ける。
 「うーん…」
 窓の外を見ていたファルルは座席に深く座りなおし、腕を組んで何か考えている。そして少し考えたあと、
 「うん、あのなっ」
 整理がついたようで、少し体を前に乗り出して話始めた。
 「実は俺、兄さんがいるんだ」
 「え?お兄ちゃん…?」
 意外な情報に、トーンとコロナは目をぱちくりとさせる。でも二人が驚くことは想定内のことだったらしく、ファルルはそのまま続ける。
 「うん、兄さん。上に三人いるんだ。俺は末っ子なんだけど…で、一番上の兄さんに言われたんだ。『お前が強くなったら、また逢おう』って」
 それで訓練施設に預けられたんだけど…、ファルルはにゃははと苦笑してみせる。
 「…いつまで経っても兄さんは迎えに来てくれないし、だからさ、俺から逢いに行こうと思って。強くなったって、認めてもらいたくてさ」
 斜め上を見て、右手拳を握り締める。漆黒の瞳に曇りは、ない。
 「………」
 (…てっきり訓練が嫌で逃げ出したものだと思っていたけど…)
 しっかりとした意志を持ったファルルに対し、コロナは申し訳なく思った。少年特有の心変わりだ、と思っていたのは、どうやら浅はかだったらしい。
 「…そっか」
 助手席のトーンが呟く。しかし、言葉にいつもの明るさが感じられない。
 「ファルルにはお兄ちゃんがいるんだね」
 淋しそうに呟かれた一言に、ハッとコロナは我に帰る。トーンの―ミクロ王女の双子の姉妹、ミシロ王女。兄弟という言葉で、トーンがそれを連想しないハズがない。
 「…と、トーン…」
 また癇癪を起こしてしまうのではないかと思い、コロナはおそるおそる声をかけてみる。
 トーンは大きな黒目がちの瞳を伏せ、そして、
 「逢えるといいねっ!」
 ぱぁっと、最高の明るい笑顔で言った。
 「うんっ!ありがとな!」
 ファルルも、同じようににかっと眩しく笑う。
 先ほど垣間見えた悲しい感情はどこにも見受けられず、二人とも向かい合って楽しそうに話をしている。
 「………」
 ―トーンは変わった。
 そう思った。悪い意味ではなく、いい意味で。いい意味で前向きに、強くなろうとしている。いや、強くなってきている。戦いたいと武器を探していたときにも感じたが、なんとなく、昨日とは違う雰囲気に、コロナは少なからず驚いていた。

 二人はそのファルルの兄さんについて話をし、気がつけば家族の話になっていた。トーンがいつ口を滑らせて「僕のお父様、王様なんだよ!」とか言い出さないかヒヤヒヤしたが、見事に会話が成立している。
 心配事が少し減ったことがわかり、コロナは話を聞くのを止めて運転に集中する。
 四輪駆動の車は快調に平地を走っている。目立った障害物もなく、実に走りやすい。
 「ねぇ、コロナは?」
 と、急に話を振られ、思わず持っていたハンドルを切ってしまった(危ない!)車体が若干右にずれたが、幸いにもわずかなブレで済んだ。
 「え?え?」
 状況がわからずにコロナはトーンの顔を見る。
 「だから、コロナに兄弟っているの?」
 聞いてなかったの?とぷーとトーンは頬を膨らませる。ファルルもそうだそうだーと片手を振り上げ、
 「いたっ!」
 車の天井に見事にぶつけた。
 「…兄弟…」
 トーンに聞かれた質問に、素直に答えようとしたところで、
 (…あれ…?)
 思考が、ぶつりと途切れた。
 「どうしたの?」
 答えにつまったコロナに、トーンは顔を覗き込む。ワンテンポずれて、
 「あ、あぁ…えっと、いません…」
 ずいぶんとたどたどしく答えた。
 普段と違うコロナの様子にトーンもファルルも少し違和感を覚えたが、そっかーと二人して適当に流し、再び会話を始めていた。
 「………」
 二人の会話をぼんやり聞きながら、コロナはハンドルを握る。
 (…兄弟…?…家族…?)
 問われた質問に、コロナは言い知れぬ不安を覚えていた。
 自分が今こうしてここにいるということは、つまり『両親』がどんな形であれ存在し、もしもその『両親』に別に子供がいるのならば、それは自分にとって『兄弟』であり、それはどちらにせよ『家族』というくくりになる。
 …なぜこのように言葉遊び的な、味気のない考えしか思いつかないのだろう。
 しかし、不思議と『家族』というものに対しての情、そもそも『家族』という概念が、コロナには欠落していた。
 大賢者である祖父の存在は認識しているのだが、両親やその他の兄弟というものがどうしてもわからない。小さな頃から育ててくれたのは祖父であり、それ以外に『家族』の繋がりというものをまるで意識したことがなかった。…それで淋しいと感じたことも、辛いと感じたこともなかったので、自分はこういうものなのだと、納得していた。
 でも改めて聞かれてみれば、それは確かにおかしいことである。
 「………」
 車は平地を快調に滑っていく。
 新しい仲間を乗せ、旅は続いていく。
 先は―まだ、見えない。



* * *




はい、ということで…『籠の少年。青空目指して』シリーズ、終わりです!
長かった…!本当に長かった…!(泣)
本当に止めまくってだらだらしまくってすみませんでした;
このファルル編ではプラチナちゃんが出たり、ブランク君が出たりと、色々世界観や目的を決める章だったので、もうこれでもかと詰め込んでしまい、結果、訳わからなくなってしまいました;
肝心のファルル君がイマイチ目立たなくて申し訳ないです…;
じ、次回こそは…!
次はいよいよハル姐さんです…本当に遅くなって申し訳ありませんでした…!

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旅戦の王女 第53話『籠の少年。青空目指して36』

 「だからどうしてハンマーなんて…」
 「だって気に入ったんだもん!」
 「いや、そうではなくて…」
 微妙に的の外れた、なんとも聞いていて煮え切らないキャッチボールが繰り返される。いい加減疲れてきてコロナがはぁと深いため息をついたところで、
 「おーいっ!」
 緑のポニーテールをなびかせ、車のところにいたハズのファルルがこちらへ向かって走ってきた。ある意味いいタイミングで現れたファルルに、コロナとトーンは話を中断して振り返る。
 ファルルはたったっと軽い歩調で二人の近くまでやってくる。着いた途端、
 「どうしたんだよ?待っても待ってもトーンは来ないし、様子見に行ったコロナは帰ってこないし、手持ち無沙汰になった隊長からはなんか説教食らうし…で、逃げて来ちゃった」
 ついさっきまで走っていたとは思えないほど、饒舌に言葉をまくしたてあげた。
 そして、にゃはは、とまるで悪戯したばかりの猫のように、頭をかきながらファルルは笑った。
 「…あぁ…そうか…」
 トーンと押し問答したりなんだりしているうちにだいぶ待たせてしまったらしいことに気づき、コロナはおもむろに袖に入れていた時計を見た。
 「………」
 ―どうやら、“ファルルにとっては”、かなり長い時間だったらしい。

 「ねぇ、ファルル!見て見て!」
 トーンは二人の間に無理矢理入り、持っているハンマーを高々と掲げ上げ、えへへと嬉しそうに自慢し始めた。
 「お!すげー!どうしたんだよ、そのハンマー!」
 戦闘の大好きなファルルは見事にトーンの振った話題に食いつき、漆黒の瞳をキラキラと輝かせながら見入る。ファルルの食いつきっぷりに、トーンも嬉しそうにニコニコと笑顔になる。
 「あのね!これ武器庫で見つけて気に入ってね、それでもらったんだよっ!」 
 あれは『もらった』のではなく、『強奪した』と言うのです。と、心の中で突っ込んでおく。
 しかし、武器自慢に花が咲いているトーンとファルルにわざわざ水を差すつもりもないので、コロナは二人の会話をなんとなく聞きながら傍観していた。
 きゃいきゃいと年相応の子供らしく会話する二人を、微笑ましく思いながら(同い年なんだよな…)ぼんやりと眺めている。
 「…やっぱり、僕も戦わなきゃいけないなって思って」
 ふと、トーンの一言が聴覚に引っかかり、コロナはぼんやりとした意識を起こす。
 「え?何で?」
 ファルルもきょとんとした様子で聞き返す。
 「昨日のこと、やっぱり僕、強くなって戦わなきゃいけないなって思ったんだ」
 わずかだが、トーンのハンマーの柄を持つ手が強張る。
 「…だから、ちゃんと使える武器がほしいなって」
 いつもと違う声色。少し調子を抑えた言葉の裏側に、何か、とても深いものを感じた。
 「そっか…だよな。あんなでっかいのとか、旅していたらまた出くわすかもしれないし…強くなっておいて、損はないよな!」
 「うん!」
 ファルルの言葉に、トーンはいつも通りのにっこりとした笑顔で答えた。
 「………」
 コロナは明確な違和感を感じていた。
 ファルルはトーンの台詞から、昨日の出来事は『ゴーレムの襲撃』であると考えたらしい。しかし、トーンが一瞬見せた感情のブレを、コロナは前に一度見ていた。
 「……闇司祭…」
 あのオッドアイの瞳が、底知れぬ魔力と虚無が脳裏に過ぎる。
 考えたくはないが、しかし、今回の旅の本当の目的を果たすためには―今度こそ、戦わなければならない。
 ―そのことを、トーンはどこかで感じているのかもしれない。
 内に秘めた静かな決意を、垣間見た気がした。




* * *




す、すみませんでした…;
ということで武器入手です;今度こそ旅立ちです;
本当にすんませんでした;;;

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