祭のものぐさもったり手帳

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旅戦の王女 第57話『盗賊を拾った日3』

 「し、死んじゃってるのかな…?」
 血まみれで倒れている人物を目の前にして、ファルルは今にも泣き出しそうな声で問いかける。コロナはその人物にそっと近づき、耳元に手を当てた。そのまま指先を顔の輪郭をなぞるようにして滑らせる。
 …とく…とく…と、微かな振動に指先に触れた。―…脈がある。
 「安心しろ、生きてる」
 「本当か!?…よかったぁ…」
 コロナの言葉にファルルはほっと肩をなでおろす。そしてすぐに、
 「だ、だったら手当てしないと…!」
 再び泣きそうな顔になって、その人物の肩へ手を伸ばした。
 「あ…アホっ!」
 コロナは伸ばしたファルルの手を掴み取り、それを制する。いきなり手を掴まれてアホ呼ばわりされたファルルは混乱したようにコロナを見つめる。
 「…だ、だって怪我っ!治療っ!ど、どっか横に…!」
 動転しているのかひっくり返った声で単語をつっかえつっかえ並べる。何を言いたいのかはなんとなくわかるのだが、
 「…頭部を強打している恐れがある。下手に動かして脳内出血でも起こしたら大変だ」
 冷静に、諭すように答える。コロナの真剣な表情に、ファルルも徐々に落ち着いてきたのか、
 「…そ、そうなのか…」
 そう呟いて俯いた。
 「じゃ、じゃあどうしたら…!?」
 ファルルは再びコロナの瞳を見つめ、不安そうに聞いてくる。コロナは倒れている人物の横で肩膝を突き、外傷の程度を診た。しばし考え、
 「…とりあえず俺が回復魔法をかける。でもそれだけだと完治は難しいだろうから…薬で治療することも必要だ」
 ちらりと自分たちが来た川下の方を見やる。
 「…俺のカバンの中に薬や包帯が入っているから、それで…」
 「わかった!」
 コロナが全部言い終わる前にファルルが元気良く返事をした。え?とコロナはファルルを見る。と、思ったらファルルは身を翻して川下へと駆け出してしまった。小石がゴロゴロ転がっている河川敷にも関わらず、そのスピードはいつもと変わらず、速い。
 一瞬その速さに目を奪われていたが、
 「…あ」
 忘れていたことを思い出し、小さくなった緑のポニーテールに向かって声を張り上げる。
 「カバンと一緒に、俺の魔法書も持ってきてくれ!一冊あればいい!」
 そのコロナの言葉を受け取ったのか、ファルルは走りながら右手を大きく振り上げた。間もなくファルルの姿は見えなくなり、手持ち無沙汰になったコロナは宙を仰いだ。

 ―じゃり…じゃり…
 「…ん?」
 小石を踏む音が聞こえた。ファルルが戻ってきたのかと思い、コロナは視線を川下へと向ける。小石に足を取られながら、小柄なオーバーオール姿の子供が見えた。
 「…トーン…!」
 名前を呼ばれたトーンはハッとコロナの存在に気がつき、小走りで駆け寄る。そして倒れている人物に目を向け、悲しそうに眉を八の字にさせる。
 「…し…しんっ…ぁ…う…」
 何か言いたいらしいが、言葉が見つからないのかもごもごと口を動かす。
 ファルルのとき同様、何が言いたいのかは伝わってきたので、
 「ご安心ください。…この人はまだ生きています」
 そう答えた。
 「…本当?」
 トーンは確認するように上目遣いでコロナを見る。こくりと頷くと、
 「…よかったぁ…!」
 安堵のため息とともにトーンの表情が和らぐ。
 「僕、凄い不安だったんだ…さっきファルルが物凄い勢いで走ってきたから、もう駄目かもーって思ってた…」
 「あー…」
 確かに川上からあのスピードで何も説明なしに走って行くのを見たら、そりゃあ驚くし不安にもなるだろう。
 「回復魔法と薬さえあればたぶん、よくなると思います。…しかし頭部を強打している可能性も踏まえて、動かすのは危険です。心苦しいとは思いますが、動かさない方がいいでしょう」
 わずかにトーンの頭にハテナマークが浮かんだが、大体のニュアンスは伝わったようで、うん、とトーンは頷いた。
 「………」
 「………」
 わずかな静寂。小川の穏やかなせせらぎが微かに耳に触れる。
 ファルル遅いな…。そう思いコロナが川下を見やったとき、
 「…あ、あのねっ!」
 トーンが口火を切った。コロナはトーンの方へと向き直る。トーンは両手の拳を握り締め、じぃっと大きな黒めがちな瞳を真剣に光らせながら、
 「僕、何かお手伝いすることないかなっ!」
 そう問いかけてきた。
 「え?」
 コロナは突然の申し出にきょとんとした声が出る。
 「…手伝い…と、言われても…」
 王女であるトーンに治療の知識があるとは思えないし、魔法だってろくに使えない。逆に下手に手を出されていつものトラブルメーカーっぷりを発揮されたらたまらない。大人しく待っていてもらいたいぐらいだが、
 「………」
 トーンの瞳は真剣そのもの。えーとー…とコロナが困って視線を逸らしても、
 「ねぇっ!」
 逸らした視線の先にトーンが回りこみ、ずいと顔を近づけてくる。驚いてコロナが一歩下がると、トーンは二歩迫って見つめてくる。
 「何か僕にも出来ることないの?何でもいいの!役に立ちたい!」
 あまりにも必死な様子に、コロナが折れないハズなかった。
 「…はぁ…」
 ため息一つ吐き出し、コロナはトーンが手を出しても大丈夫な範囲のお手伝いを考える。
 「…では、傷を拭くためのお湯とタオルを用意してください」
 コロナの指示に、トーンはうん!とにっこり笑顔で答え、早速お湯を沸かすための鍋を取りに川下へと駆けて行った。
 それと入れ替わりに、ファルルが肩掛けカバンと本を一冊小脇に抱え、川上へと向かっているのが見えた。



* * *



ということでお待たせしました;第三話です;
ハル姉さん出番なくて本当にすみません;
「倒れた人物」だけで済ましていて本当にすみません;;;
じ、次回では…!次回では今度こそ…!(毎回そう言ってないか?

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