祭のものぐさもったり手帳

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旅戦の王女 第54話『籠の少年。青空目指して37』

 四人乗りの車に大きなハンマーを乗せ(トランクに入りきらなかったので、車の上に乗せて紐でくくりつけた。…いいのか、これで?)ようやく準備が整った。
 コロナはもちろん運転席に座り、トーンが助手席に乗り込む。そして新しい旅の道連れ―ファルルは後部座席に座った。全員が入り、忘れ物や足りないものがないかを確認し、コロナは静かにエンジンをかけた。ブブブ…と車体が小刻みに揺れ始め、エンジンが温まっていく。
 「じゃあねーっ!バイバーイ!」
 トーンは窓を開け、大きく身を乗り出して見送りに来た兵士たちに手を振る。さすがに危ないので左手を伸ばしてトーンの首根っこを掴み、
 「むぎゃっ」
 無理矢理座らせた。
 「も?…コロナぁ??」
 恨めしそうな視線を左から右へ受け流しつつ、コロナはブレーキを静かに離す。車は静かに動き出し、門の前まで静かに進んだ。車が門手前まで移動すると、待機していた兵士が大き目の取っ手をガラガラと回す。すると訓練施設の象徴でもある巨大で頑丈な門が、入ってきたときと同じようにゆっくりと開いていく。それを滑るようにして車は走り抜けた。
 少しエンジンを踏めば車はどんどんと速くなり、訓練施設はみるみる遠くなっていく。
 高い競りあがった壁が、徐々に小さくなっていく。
 ファルルは後部座席の窓を開け、少しだけ顔を出す。緑色のポニーテールが風にばさばさと弄ばれる。後方にはだいぶ小さくなってしまった訓練施設があった。
 「………」
 ファルルは右手を左胸に当て、目をゆっくりと閉じた。
 自由はなかったけれども、あんなに出たいと思っていたけれども、言い知れない物悲しさがファルルの胸に溢れていた。さよならの代わりに、一緒に強くなろうと共にがんばった兵士や隊長たちに、心の中で、静かに敬意を表した。
 そして目をゆっくりと開け、空を仰ぎ見る。
 「…うわぁ…!」
 壁に隔てられない、真っ青な空が頭上一杯に広がっていた。
 白い雲が流れ、少しだけ肌寒い風が吹き抜けていく。どこまでも広がる緑の大地。端を縁取る高い山々。そしてその山の先まで、地平の先まで、続いていく無限大の青空。
 「すげぇ!本当の青空だ!」
 ついに手に入れた自由を全身で感じ、ファルルは叫んだ。

 車はエンジン音を響かせ、平地を進んでいく。
 「…ねぇ、ファルル」
 助手席に座っていたトーンが後部座席の方を向く。
 「ずっと不思議だったんだけど、どうしてそんなに外に出たかったの?」
 確かに訓練も大変だと思うけれども、隊長さんも兵士の皆も優しかったし…と、トーンはもごもごと言葉をつむぐ。運転をしていたコロナも視線は前にしたまま、耳を傾ける。
 「うーん…」
 窓の外を見ていたファルルは座席に深く座りなおし、腕を組んで何か考えている。そして少し考えたあと、
 「うん、あのなっ」
 整理がついたようで、少し体を前に乗り出して話始めた。
 「実は俺、兄さんがいるんだ」
 「え?お兄ちゃん…?」
 意外な情報に、トーンとコロナは目をぱちくりとさせる。でも二人が驚くことは想定内のことだったらしく、ファルルはそのまま続ける。
 「うん、兄さん。上に三人いるんだ。俺は末っ子なんだけど…で、一番上の兄さんに言われたんだ。『お前が強くなったら、また逢おう』って」
 それで訓練施設に預けられたんだけど…、ファルルはにゃははと苦笑してみせる。
 「…いつまで経っても兄さんは迎えに来てくれないし、だからさ、俺から逢いに行こうと思って。強くなったって、認めてもらいたくてさ」
 斜め上を見て、右手拳を握り締める。漆黒の瞳に曇りは、ない。
 「………」
 (…てっきり訓練が嫌で逃げ出したものだと思っていたけど…)
 しっかりとした意志を持ったファルルに対し、コロナは申し訳なく思った。少年特有の心変わりだ、と思っていたのは、どうやら浅はかだったらしい。
 「…そっか」
 助手席のトーンが呟く。しかし、言葉にいつもの明るさが感じられない。
 「ファルルにはお兄ちゃんがいるんだね」
 淋しそうに呟かれた一言に、ハッとコロナは我に帰る。トーンの―ミクロ王女の双子の姉妹、ミシロ王女。兄弟という言葉で、トーンがそれを連想しないハズがない。
 「…と、トーン…」
 また癇癪を起こしてしまうのではないかと思い、コロナはおそるおそる声をかけてみる。
 トーンは大きな黒目がちの瞳を伏せ、そして、
 「逢えるといいねっ!」
 ぱぁっと、最高の明るい笑顔で言った。
 「うんっ!ありがとな!」
 ファルルも、同じようににかっと眩しく笑う。
 先ほど垣間見えた悲しい感情はどこにも見受けられず、二人とも向かい合って楽しそうに話をしている。
 「………」
 ―トーンは変わった。
 そう思った。悪い意味ではなく、いい意味で。いい意味で前向きに、強くなろうとしている。いや、強くなってきている。戦いたいと武器を探していたときにも感じたが、なんとなく、昨日とは違う雰囲気に、コロナは少なからず驚いていた。

 二人はそのファルルの兄さんについて話をし、気がつけば家族の話になっていた。トーンがいつ口を滑らせて「僕のお父様、王様なんだよ!」とか言い出さないかヒヤヒヤしたが、見事に会話が成立している。
 心配事が少し減ったことがわかり、コロナは話を聞くのを止めて運転に集中する。
 四輪駆動の車は快調に平地を走っている。目立った障害物もなく、実に走りやすい。
 「ねぇ、コロナは?」
 と、急に話を振られ、思わず持っていたハンドルを切ってしまった(危ない!)車体が若干右にずれたが、幸いにもわずかなブレで済んだ。
 「え?え?」
 状況がわからずにコロナはトーンの顔を見る。
 「だから、コロナに兄弟っているの?」
 聞いてなかったの?とぷーとトーンは頬を膨らませる。ファルルもそうだそうだーと片手を振り上げ、
 「いたっ!」
 車の天井に見事にぶつけた。
 「…兄弟…」
 トーンに聞かれた質問に、素直に答えようとしたところで、
 (…あれ…?)
 思考が、ぶつりと途切れた。
 「どうしたの?」
 答えにつまったコロナに、トーンは顔を覗き込む。ワンテンポずれて、
 「あ、あぁ…えっと、いません…」
 ずいぶんとたどたどしく答えた。
 普段と違うコロナの様子にトーンもファルルも少し違和感を覚えたが、そっかーと二人して適当に流し、再び会話を始めていた。
 「………」
 二人の会話をぼんやり聞きながら、コロナはハンドルを握る。
 (…兄弟…?…家族…?)
 問われた質問に、コロナは言い知れぬ不安を覚えていた。
 自分が今こうしてここにいるということは、つまり『両親』がどんな形であれ存在し、もしもその『両親』に別に子供がいるのならば、それは自分にとって『兄弟』であり、それはどちらにせよ『家族』というくくりになる。
 …なぜこのように言葉遊び的な、味気のない考えしか思いつかないのだろう。
 しかし、不思議と『家族』というものに対しての情、そもそも『家族』という概念が、コロナには欠落していた。
 大賢者である祖父の存在は認識しているのだが、両親やその他の兄弟というものがどうしてもわからない。小さな頃から育ててくれたのは祖父であり、それ以外に『家族』の繋がりというものをまるで意識したことがなかった。…それで淋しいと感じたことも、辛いと感じたこともなかったので、自分はこういうものなのだと、納得していた。
 でも改めて聞かれてみれば、それは確かにおかしいことである。
 「………」
 車は平地を快調に滑っていく。
 新しい仲間を乗せ、旅は続いていく。
 先は―まだ、見えない。



* * *




はい、ということで…『籠の少年。青空目指して』シリーズ、終わりです!
長かった…!本当に長かった…!(泣)
本当に止めまくってだらだらしまくってすみませんでした;
このファルル編ではプラチナちゃんが出たり、ブランク君が出たりと、色々世界観や目的を決める章だったので、もうこれでもかと詰め込んでしまい、結果、訳わからなくなってしまいました;
肝心のファルル君がイマイチ目立たなくて申し訳ないです…;
じ、次回こそは…!
次はいよいよハル姐さんです…本当に遅くなって申し訳ありませんでした…!
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