祭のものぐさもったり手帳

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旅戦の王女 第67話『盗賊を拾った日13』

 「おかみさん」
 地図を見ていたハルのオッドアイが問いかけた。
 「盗賊がこの宿屋に来たのは俺がいた一回だけですかねぇ?」
 おかみさんは困ったように眉を下げ、
 「…えぇ、そうよ。あなたが襲われたあと、あらかた中を物色されて、それからは一度も来てないわ。盗賊たちがここをあとにするときに『家から一歩も出るなよ』って言われたから…私も怖くて外には出ていないし…」
 「………」
 おかみさんの言葉にハルは考えるように瞳を伏せた。タバコに手は伸びない。
 「…なぁ、ベッドは空いているんですかい?」
 「えぇ、銀食器や額縁なんかは盗まれたけど…ベッドは無事よ」
 ハルは細くしなやかな指を4本だし、
 「大人一人、子供一人…泊めてくれませんかねぇ?」
 そう言った。
 「―え?」
 「盗賊たちはそんな同じ家に二度も三度も入りゃあしないでしょうし、それにおかみさんがおとなしくしていたおかげで見張りも特別厳しかぁない。…どうでしょう?宿代は盗賊からお宝奪ったあとの出世払い…ということでいいですかねぇい?」
 きょとんとしている一同を尻目に、ハルはにぃと形のいい唇を引いた。
 「おいおいっ」
 コロナがすかさず間に割って入る。
 「こんなときにノンキに泊まろうっていうのか!?」
 「まさかぁ」
 ハルはにやにやしながら、
 「なぁに、夜まで待とうって話ですよ」
 ―ハルの作戦は『夜襲』だった。
 夜、盗賊たちが寝静まり、見張りたちの視界が悪くなった頃に久遠の泉まで向かい、一気に女ボスを叩くというものだった。
 「…でもさぁ、盗賊って夜に活動するもんじゃねぇの?」
 ファルルの質問に、ハルはあははと乾いた笑いを漏らす。
 「まぁ、そりゃそうなんですがねぇい。―ただ昼よりはよっぽど見張りたちの目を掻い潜りやすいですし、それに女ボスはまず寝てるはずでさぁ」
 「なんで?」
 やけに自信たっぷりに言うので、一同が不思議に思っていると、ハルは近くにいたトーンの頬を軽くむいっとつまんだ。
 「なっ!」
 びっくりしたのはコロナだった。―とてもそうは見えないとは言え、一国の王女の頬をつねるとは!
 事情を知らないとは恐ろしいもので、周りはむしろコロナが驚いたことに驚いていた。つままれた当の本人も、「ふぇ?」と気の抜けた声を上げる。
 「夜更かしはお肌の大敵ですからねぇい」
 にぃと笑うハルに、コロナはただただ青ざめる。
 (…そんな理由でか?)

 かくして四人は日が暮れるまでの間、宿屋で休憩を取ることにした。部屋は二人で一部屋使うことになったのだが、
 「じゃあ、俺はこいつと一緒でいいですかい?」
 ハルがそう言ってトーンの頭をぽんとやった。コロナとしては未だ得体の知れないシーフと王女を同じ部屋に、というのに抵抗を感じていたのだが、
 「僕もハルさんとがいいーっ」
 とかトーン自身が言っちゃうので、コロナは渋々承諾した。
 自然とコロナとファルルは同じ部屋ということになり、
 「枕投げしようぜ、枕投げ」
 「だが断る」
 なんてやり取りをしていた。最初こそはしゃいでいたファルルだったが、すぐに疲れが出たのか、そのままベッドに丸まって眠り込んでしまった。その姿がまるで子猫のようだったので、なんとなく微笑ましい気分になりながら、コロナも横になって眠った。
 日が傾いてきた頃、おかみさんが四人のために食事を用意してくれていた。
 中途半端な時間に眠ったせいか、ボーっとする頭を持ち上げて、四人はありがたく食事をいただいた。おかみさんが得意だという暖かいシチューをほお張る。
 「おいしーいっ」
 「んまーいっ」
 ファルルとトーンはにこにこしながらスプーンを動かす。その様子をおかみさんは「まぁまぁ、火傷しないようにね」と嬉しそうに眺めていた。
 ハルからそっと耳打ちされたのだが、どうやらこのおかみさんは12年前に孫を亡くしていたというのだ。そしてその亡くなった孫がちょうどハルと同い年くらいだったらしく、それも手伝って手厚いもてなしを受けたらしい。
 「…『闇の現事件』か?」
 声を押し殺し、コロナが問いかける。ハルはこくりと頷いた。
 「…お孫さん、モノケディアの兵隊さんだったみたいさねぇ…出兵してそのまま、だったらしいでさァ」
 「………」
 優しいおかみさんの横顔が急激に寂しく見えてくる。―その孫も、このシチューを食べたのだろうか?
 スプーンで一口すすると、豊かなミルクの香りと、かすかな塩味がした。



   * * *



シンプルに夜襲作戦で行きたいと思います。
事件の影響はちらほらあちこちに出ているみたいです。
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