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祭のものぐさもったり手帳

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旅戦の王女 第68話『盗賊を拾った日14』

 部屋に入るとすぐさまファルルは布団に潜り込み、ものの数秒でスヤスヤと寝息を立て始めた。コロナはファルルが寝たのを確認したあと、ベッドに座って少し本を読んだ。三十分ほど経ったあと、コロナはファルルのことを起こさないようにそっと部屋を出た。
 部屋を出ると食堂からカチャカチャという音と、わずかな明かりが漏れていた。おかみさんが片付けでもしているのだろう。
 コロナはそうっと歩を進め、隣の部屋へと向かった。隣の部屋にはトーンとハルが泊まっている。
 (…さてどうしたものか…)
 勝手に入って見つかったら角が立つし、でもノックすればトーンまで起きてやかましいことになるかもしれない。コロナがそう考えあぐねいていると、
 ―キィ…。
 「あ!
 突然扉が開き始めたのだ。びっくりしたコロナは思わずその場から離れようと踵を返す。
 「…コロナ?」
 ―しかし、もちろんのことあっけなく見つかってしまい、コロナは観念して扉の前に戻った。少しだけ開けた扉から、ハルが銀髪を揺らして伺い見ている。
 「………」
 どう切り出そうかとコロナが目を伏せ、考えていると、ハルは苦笑したようにため息をついた。
 「…ま、入ってくだせぇ」
 コロナの考えは見通されているらしい。言われるがまま、コロナは部屋へと入った。
 中ではトーンがベッドに埋まりながらすやすや眠っていた。安心しきった寝顔に、コロナはほっと肩を撫で下ろす。
 「…手握っててほしいって」
 ハルが寝ているトーンの側に歩み寄る。
 「寝るまで、手を握っていてほしいってこの子に言われて、さっきまで手ぇ繋いでたんですよ」
 そう言ってハルはぴんと跳ねた黒髪を優しく撫でた。
 「…寂しいんでしょうねぇ…」
 「………」
 相変わらず仏頂面を貫くコロナに、ハルは問いかけた。
 「…どこの娘さんですかい、トーンは」
 勘が強いハルにはわかっていたらしい。…トーンは少女であり、そしてそれが『ただの少女』ではないことを。王から直々に勅令を受けて旅をしている賢者コロナと近衛兵(見習い)の少年ファルルに守られるようにしている、謎の存在。
 「………」
 コロナは唇をつぐみ、足元を見た。
 ファルルにもまだ告げていない事実―トーンはモノケディアの王女・ミクロであるということを…。
 「………」
 「……言えねぇですかい?」
 オッドアイの瞳が聞いてくる。
 「………今は、言えない」
 コロナは重々しく口を開いた。ハルはその答えを予想していたようで、さしてがっかりした様子もなく「そうですかぃ」と小さく言った。
 「…トーンとファルルはお前に懐いているけど…俺はそこまで信用はしていない」
 仏頂面を更に硬くさせ、コロナが呟いた。
 「まだ信用ないんですねぇい?」
 「シーフを簡単に信用できない」
 差別でしょう、そりゃあ…とハルがあははと茶化すように笑った。なんとなくコロナはムッとなったので、唇を引き結ぶ。
 やれやれと言った様子でハルは続けた。
 「…言っときまさぁ、俺はその闇司祭なんちゃらとは関係ありゃぁしませんよ?」
 両手をぱっと上げ、自分が潔白であることをアピールする。しかしコロナは納得ができない。
 「…じゃあその目はどう説明するつもりだ?」
 「目ェ?」
 「闇司祭もオッドアイだ」
 淀みなくコロナは言った。
 それを聞いたハルは「あぁ…」と吐息のように頷き、ふむと考え込んだ。無意識なのか右手がポケットの紙タバコに伸びたが、向かいで寝ているトーンの顔を見て、すっと手を引っ込めた。
 「…わかっちゃぁいるんでしょう?」
 なぁ、賢者様?とハルがオッドアイの瞳でしゃくるように見上げてきた。一瞬闇司祭の瞳と被ったが、コロナは唇をぐっと引き結んでこらえた。
 そして少し間を置いてから、ゆっくりとコロナは唇を開いた。
 「…お前からは負の力は感じられないし、半日いて悪い奴ではないというのもわかった…」
 ゆっくりゆっくり、今日これまでを振り返る。
 盗賊に襲われ川原で倒れていたこと、飄々としているが子供である自分たちを気遣っていたこと、たった一晩しかいなかったのに打ち解けていたおかみさんのこと…。
 「…お前は闇司祭とは関係ない」
 ―そう結論した。

 「ならどうして未だに俺のことを信用していないんですかぃ?」
 ハルはほっとしたあと、茶化すように言った。コロナはうぅんと眉をひそめる。
 「…お前がまだ何か隠している気がするから」
 「何を?」
 そう問われ、コロナはぐっと口をつぐんだ。
 しかしそれはわかる。―ハルはまだ何かを隠している。
 それが重要なことかそうでないことかはわからないが、コロナがハルを完璧に信用していないように、ハル自身もコロナたちに何かの疑いを持ち、完璧に信用していないのだ。
 「…ま」
 ハルが立ち上がる。
 「隠し事はお互い様じゃあないでしょうか?」
 長身からコロナを見下ろし、にっと口角を吊り上げて笑った。その様子は深刻というよりはどこか悪戯めいていて、「早く気づいてごらん」というぐらいだった。
 「…ほら、まだ時間はありまさぁ。早く寝ておかないと、突撃できないですぜぃ?」
 ぽんとコロナの頭を撫で、ハルは欠伸をしながらベッドへと戻った。
 「………」
 コロナは撫でられた頭を少し触り、再び感じた面映い気持ちを押し込み、黙って部屋をあとにした。


   * * *


ハルさんとコロナの会話。ハルさんが何を隠しているのかは内緒。
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