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祭のものぐさもったり手帳

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旅戦の王女  第64話『盗賊を拾った日10』


 「…さて、と」
 ハルはうーんと伸びをするように腕を伸ばす。その背中にコロナが問いかける。
 「―もしかして、もう一度村に戻るのか?」
 「あんたたちは立ち寄らない方がいいですぜい?」
 触らぬ何とかに祟りなしって言うじゃありませんか―そうハルは言い放った。
 「えっ?でも…」
 さも当たり前のようにしれっと言うハルに対し、トーンは何かを言いかけてその言葉を飲み込んだ。ファルルも何かもじもじとしている。どうやら考えていることは同じらしい。
 あれだけの深手を負ったのだ。武器も何もない状態で戻ったところで、展開は同じだろう。今度こそ死体になってこの川を流れ着くかもしれない。…それならばいっそ、自分たちも連れて行ってほしいと、トーンとファルルは言いたいのだろう。訓練施設からここまでの道のりで三人のレベルはそれなりにあがった。だから一人で行くよりは四人で行った方がきっといいと思ったのだろう。
 コロナも同じように考えていた。その方がきっと効率がいいし、久遠の泉にはどちらにせよ寄らなければならない。それなら行きずりにしろ人手は多い方がいい。
 そんな三人の胸中を察したのか、ハルは苦笑したように目じりを下げる。
 「子供だって容赦しない奴らでサァ」
 「でも…っ」
 なお食い下がろうとするトーンの頭に、ハルはぽんと片手を乗せた。銜えたタバコの煙もぽんと跳ねるように歪む。
 「ありがとう。でもこれ以上巻き込む訳には行かないんでサァ。…トーン達は早くここから離れてくだせぇ」
 くしゃくしゃとハルが頭を撫でる。トーンの黒くて短い猫っ毛が不満そうに左右に揺れる。
 「腐るんじゃありませんよ。…キャンプなら別のところでやればいいじゃないですかい?」
 ハルが宥めるように優しく言った。が、コロナとファルルの目が点になった。―やっぱり事情を知らない第三者から見れば、この三人の旅はキャンプに見えるらしい…その通りだろうとコロナは思っていたが、なんとなく複雑な気分になった。―と、
 「……キャンプじゃないもんっ!!!」
 大きな声が川原に響いた。
 ハルが目をぱちくりとさせる。コロナもファルルも呆気に取られながら、声の主を見つめる。―トーンが肩をいからせ、掌をぎゅっと握り締めてい。
 「…キャンプじゃないもん!遊びじゃないもん!!」
 拳を握り締めながらぶんぶんと振り回す。顔を真っ赤にさせて力いっぱい怒りを全身で表している。
 (まずい。癇癪がぶり返した)
 コロナの顔からさーっと血の気が失せた。ここのところ機嫌がよかったし、何か気分が害するようなことがあっても、気持ちをコントロたールすることが出来ていたトーン。…だったが、今の会話の中で何かスイッチが入ってしまったらしい。止めに入ろうとコロナがトーンの前に出ようとしたとき、
 「…僕たちミシロを救いに行くんだもおぉおん!!!」
 トーンの絶叫が木霊した。
 わずかな静寂。ハルは瞳を開いたまま、トーンは肩でぜいぜいと息をさせている。
 「………ミシロ、って?」
 ハルが口を開いた。トーンは唇をきゅっと結び、泣きそうな顔をして俯いている。見兼ねたコロナが簡単ないきさつを説明した。
 モノケディア王国の白の王女・ミシロが原因不明の眠りについたこと。
 その王女を救うため、モノケディア王より旅に出るよう命令されたこと。
 もう一度現れた12年前の魔法使い。闇司祭・ブランクについてのこと。
 「……ふぅん…」
 ハルは黙って聞いていた。瞳は伏せがちだが凛と光っており、先ほどまであったふざけた雰囲気は感じられない。ことの深刻さに気付き、真剣に受け入れている。
 「…そのためには久遠の泉の水を持っていかなきゃならない」
 「なぁ、どうにかならないかな?」
 ファルルが懇願するように割り入ってきた。大きな黒目がちの瞳が不安げに揺らぐ。ハルは真剣な表情のまま、何か考えるように瞳を閉じた。


     * * *


キャンプっぽいよな、確かに…
次回からはいよいよ泉に突入です!

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旅戦の王女  第63話『盗賊を拾った日9』

 「えええぇっ!?」
 「なんでぇ!!?」
 トーンとファルルが声を上げる。二人のオーバーリアクションにハルは顔をしかめる。
 「俺だって知りたいでサァ」
 「…『チョイナー・ベル』が久遠の泉を襲撃したのはまったくの偶然だったってことか?」
 「?えぇ、そうでサァ」
 ハルの答えにコロナは思考を巡らせる。偶然、本当に偶然だろうか?
 「…んでまー、そのまま久遠の泉の周りを陣取って村人たちを軟禁した訳でサァ」
 「なんきん?」
 トーンが鍵を開ける動作をした。
 「…それは南京錠です」
 コロナのツッコミにトーンは「あちゃー、そっかぁ」と頭をかきながら笑った。南京錠を知っていて軟禁を知らない辺り、素なのか狙っているのか怪しくなってきた。
 「村まで盗賊集団が襲ってきたんでサァ。爆破された家はなかったんですがねぇ…家財は盗まれるわ、おまけに村中を盗賊の連中がうろついているから外に出るにも出られない状態で…」
 「うわあぁ…」
 トーンが情けない声を出す。
 「ひっでぇなそれ…よくハルは無事だった…」
 憤慨したように切り出したファルルはそこで「あ」と言葉を切った。ハルが苦笑したように顔を歪める。
 「…あんまり無事じゃなかったですがねぇい…」
 短くなったタバコをぷっと足元に吐き出し、靴の底でぐりぐりと火を消す。そして再び紙タバコの箱を懐から取り出す。
 「子供の前」
 今度こそコロナは口を挟んだ。ハルは申し訳なさそうに目じりを下げ、
 「いやぁ、失礼しました。…でもこれが俺の商売道具ですからねぇい」
 「?」
 そう言ってタバコを銜え、最初と同じように火をつけた。ふぅーっと紫煙がゆるりと空へ上っていく。
 「…うん。であの状態の通り、俺はその盗賊集団にやられましてねぇ」
 久遠の泉で『チョイナー・ベル』を見たハルは急いで村から出ようと宿へ戻った。宿にはまだ宝やら荷物やらが預けてあったからだ。荷物をまとめて外へ出ようとすると、フロアで宿屋のおかみが盗賊に襲われていた。
 「…そのおかみさん、あんまり目がよくないらしくてねぇい…それなのに俺のような正体不明の奴を泊めてくれた上に、色々よくしてくれましてねぇ……」
 こんなことは似合わないか…とハルは照れくさそうに笑った。なんとなく、今まで見た笑顔の中で一番ハルらしい笑顔だとコロナは思った。
 「…それで、襲われているのを見た瞬間、ついカァーッときちまいまして…」
 おかみを助けるために襲ってきた盗賊を返り討ちにしたらしい。―それがいけなかった。
 「盗賊一人一人は弱かったんで問題はなかったんですがねぇぃ…すぐに親玉が現れて…」
 『チョイナー・ベル』の親玉はハルと差して年の変わらない少女だったらしい。遠い東の国にいるような美女だったらしいが、自己主張の激しい我侭な性格の女ボスだと。そしてその女ボスの片腕と思われる体格のいい男がいたという。その男はどちらかと言えばモノケディア王国の国民たちと近い人種だったらしいが、女ボスにべったりだった。
 「それでその二人を中心に一気に俺は囲まれて…あっという間にお宝と商売道具を持っていかれました」
 「…その商売道具って?」
 ファルルが問いかけた。
 「……“鈴”でサァ…」
 「鈴?」
 「…それがお前の媒介か?」
 コロナが尋ねた。ハルがきょとんとした顔をしたが、すぐにあぁと手を叩く。
 「魔法のことですかい?…まぁ少なからず使いますから似たようなものですが、残念ながら正解じゃないですねぇい」
 「…?」
 今度はコロナの頭にハテナが浮かんだ。鈴でどう戦うというのだろうか?
 「……それで、身包みはがされた俺は戦ったんですが、多勢に無勢。おまけに向こうは至近距離でどんばん爆破してくるもんで…なんとか水路に飛び込んで、ここまで泳いできたんでサァ…いやいや、まいったまいった…」
 照れ隠しに頭をかくハルに対し、コロナたちはなんて言っていいやらわからず呆然としていた。『恥ずかしい話』というにはあまりにも壮絶な、生死を分かつような出来事じゃないか。
 「…よく、無事だったね…」
 恐る恐るとした様子でトーンが口を開く。
 「そうさねぇ…」
 ここでハルは口を一旦閉じ、誰にもわからない程度ににやりと口角を持ち上げた。
 「……トーンたちがあと一日遅かったらもしかしたら…」
 そして低く、ゆっくりと単語単語で区切りながら、恨めしそうにハルは言った。
 おぞましい雰囲気に、三人はほぼ同時に肩をぶるりと震わせた。
 ハルは愉快そうに笑った。


    * * *


ハル姐さんのシーン楽しい…。
「大勢に囲まれて身包みはがされた」という言葉で変なこと妄想しないように!(それはお前だけだ)

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旅戦の王女 題62話『盗賊を拾った日8』

 「本当は俺もあんな奴らと関わるつもりなんてこれっぽっちもなかったんですがねい?これが、まぁその…」
 ここに来て再び歯切れが悪くなった。どうやら本人曰く『恥ずかしい話』とはここら変のエピソードに含まれているらしい。
 「なになぁに?」
 「何だよ?もったいぶらずに教えろよ」
 そのことに気がつかないトーンとファルルがずずいとハルに顔を近づける。ハルは困ったように顔を背けた。
 「まー…その…あ、言い忘れてましたけど」
 話題を変えたかったのか、ハルは真顔で、
 「俺はシーフなんでサァ」
 やっぱり―コロナは小さくガッツポーズをした。
 「…なんですかィ?」
 「いや別に…」
 ハルの怪訝そうな表情を横目で流す。
 「へー、シーフかぁ!かっこいいなぁ!」
 ファルルが瞳をキラキラと輝かせた。身のこなし軽やかに戦うシーフという職業は彼にとって憧れの対象であるらしい。
 「…でも、シーフって泥棒さんでしょう?」
 それって悪いことだよねぇ?と、トーンが至極まっとうなことを聞いてきた。お転婆だからファルルと似たような感想がでるかと思ったが、こういう変に道徳があるところは王女らしい。
 ハルは長い人差し指を立て、ちっちっと横に振る。
 「…俺の仕事は宝探しでサァ。トレジャーハンターとでも名乗った方がいいかもしれませんねぇイ」
 トレジャーハンター!
 途端、トーンの瞳もキラキラと輝きだした。
 「凄い!お宝探して、こう…ぎゃーんってなるんだよね!?」
 「ぎゃーん?」
 謎の擬音にハルの頭上に大きなハテナが浮かぶ。
 「こう、こうさっ!遺跡?とかでこう、ね!大きな岩ごろごろ?っとか!」
 精一杯説明しようと身振り手振り大きくなるトーン。顔は興奮して真っ赤になっている。それを聞いたファルルが「俺も知ってる!」と声を上げた。
 「お宝取ったら大きな岩がごろごろ転がってくるんだよな!?―んで、それを間一髪のところでこう、しゅばっと!」
 「かっこいい?!」
 二人できゃいのきゃいのと盛り上がっている。話の断片から察するに、どうやら二人は有名な物語…トレジャーハンターが活躍する冒険活劇について語っているらしい。あの場面がかっこよかった。あそこがおもしろかった。と口々に感想を語っている。
 気がつけば二人の雑談に花が咲いてしまい、肝心のハルがぽつりと置いてけぼりになっていた。
 「…それで?そのトレジャーハンターなシーフだからどうした?」
 コロナがハルのオッドアイの瞳を見上げながら聞いた。ハルはおどけた表情で肩をすくめ、楽しそうに話す二人を指差す。
 「楽しそうにやっているからその話は今はいいんじゃないですかい?」
 どうやら『恥ずかしい話』をせずに有耶無耶にしてしまおうという魂胆らしい。
 「…あの話はなかなか傑作でしたねぇ。俺も全巻揃えまして…」
 「…それで、シーフだからどうした?」
 本気で話をそらすつもりのハルに、コロナが再度聞く。ハルは怪訝そうな顔をしたが、すぐに諦めたのか、
 「……結構食いつくんですねぇ」
 にやりと笑った。
 また話をするつもりになったらしいと感じたコロナは疑問に思っていたことを問いかけた。
 「…シーフと盗賊というからには、ハルとその『チョイナー・ベル』というのは仕事仲間じゃないのか?」
 「ぜーんぜんっ」
 ハルはオーバーリアクションで顔を横に振ってみせる。
 「最初に言ったでしょう?『あんな奴らに関わるつもりはこれっぽっちもなかった』って」
 それとトレジャーハンターと盗賊は仕事区域もまったく違うんでサァ。―ハルはタバコの煙を吐きながら説明した。
 「そもそも同じ盗賊だったとしても、あんな何でもかんでも爆破して強引に盗るやり方は…俺ぁ賛成できませんねぇ」
 どうやらシーフや盗賊間でも色々と派閥のようなものはあるらしい。
 「……俺が久遠の泉に来たのはまったくの偶然だったんでサァ。……ある遺跡を巡って、それなりに高価なお宝をゲットできましてねぃ?それをそのままこの先のレイ・サント辺りで捌こうかと思いまして…」
 「…の、割には結構身軽だな?」
 ハルを見つけたとき荷物らしい荷物を持っていなかった。他国で捌くほどのお宝を所持していたとは思えない。
 「話は最後まで聞いてくだセェ」
 ぴしゃりとハルに言われ、コロナは黙りこけることにした。黙っているのはコロナの十八番だ(むしろ喋ろと言われる方が苦痛だ)
 「…んで、遺跡探索で疲れたし、お宝は重いし…ということで、ここら辺りで宿でも取ろうかと思いましてねぇ?…久遠の泉の村で宿を取って、休んでた訳でサァ」
 ハルはあははと苦笑する。
 「お宝持ったまま休むなんてずいぶん余裕があるなぁと思いましょう?…もちろんこれが盗品だったら足が着く前にさっさと捌くんですがねぇい?遺跡のお宝だと持ち主はとっくの昔にお陀仏しるでしょう?それに岩がごろごろ?っと転がってくるほど大掛かりな遺跡でもなかったですし、ねぇ…?」
 ちらりとハルは目線を逸らす。逸らした先にはトーンとファルルがまだ話に花を咲かせていた。目線に気がついた二人は「え?何?」と目をぱちくりさせている。先ほどのハルの言葉には気がついていないらしい。
 「…でも今思えば、ちょっと無理してでもレイ・サントまで行ってればよかったと思いまサァ…」
 自嘲気味に、ハルは言葉を吐き出した。一緒に煙も吐き出される。タバコの灰がちりちりとこぼれた。
 「―異変が起こったのはその次の日…昨日?のことですかねぇい?」
 と、ここでハルがコロナに今日の日付を聞いてきた。コロナが答えると、ハルはほっと息をつく。
 「じゃあやっぱり昨日のことでサァ。…もしかしたら何日間か気絶してたんじゃないかとちと心配になりましてねぇい…」
 あれだけの怪我だ、勘違いしそうになっても無理はない。とコロナはハルのことをフォローしようと思ったが、黙っていろ発令を忠実に守ってそのまま黙っておいた。
 (…しかし引っかかる)
 昨日といえば、訓練施設で闇司祭が現れ、巨大ゴーレムと一戦交えた日だ。ただの一致とは思えない。
 「…昨日、宿で昼近くまで寝てましてねぇい?そしたら急に外でどーんと大きな音がしまして…」
 「爆弾!?」
 「爆弾!?」
 トーンとファルルが同時に声を上げた。トレジャーハンター談義が終わったので、こっちに戻ってきたらしい。ハルは続ける。
 「…それで何事かと思って外を見てみたら、久遠の泉の方から煙がでていたんでサァ」
 三人顔を見合わせ、神妙な顔つきになる。
 「ど、どうして…?」
 「……奴ら…でサァ…」
 わざと声を低く恨めしげに言うハルに、トーンとファルルはひっと悲鳴を上げる。
 「…『チョイナー・ベル』」
 コロナは口のチャックを外してさらりと言った。
 「ネタバレは嫌がられますぜぃ?」
 脅かそうと思ったのに…とハルはぶちぶち言いながら唇を尖らせた。
 「『チョイナー・ベル』って…さっき言ってた爆弾大好きな盗賊のこと?」
 トーンの質問にハルは頷いて答える。
 「ネタバレされちゃったから素直に言いまサァ。…久遠の泉には『チョイナー・ベル』の連中がいて、爆弾構えてその一帯を占拠してたんでサァ」


     * * *


有名なトレジャーハンターはもちろん、あの方。
でも私は原作を見たことありません…(おい)

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旅戦の王女 第61話『盗賊を拾った日7』

 「でもどうしてあんなところで倒れていたの?」
 そう尋ねたのはトーンだった。最も根本的な質問に、ハルはうーんと唸る。
 「…これはねぇ…何せ恥ずかしい話なもんですからねぇい…」
 できればあんまり話したくないですねぇと言葉を濁す。
 「恥ずかしい?土手から落ちたのか?」
 ファルルがきょとんとして言う。ハルは不満そうに眉をひそめる。
 「さすがにそこまで間抜けじゃありませんて」
 そりゃそうだ。土手から転んだだけであんな半死半生の状態になっていたらたまったもんじゃない。
 ハルはうーんうーんと唸りながら、ポケットから紙タバコの箱を取り出した。箱の底をとんと叩き、慣れた手つきでタバコを銜える。
 子供の前でタバコはいかがなものかとコロナが口を挟もうとした瞬間、
 ―ジッ!
 タバコの先端で火花が散った。と、同時にタバコから煙が上がった。ふぅーとハルは顔を背け、ひとつ息を吐く。
 「…魔法か?」
 「簡単な奴でさァ」
 ライターをいちいち持ち歩くのも面倒ですからねい―ハルはタバコを銜えた状態でにかりと笑った。コロナの怪訝は益々深まった。
 魔法がまったく使えないのなら関係も薄くなるが、多少なりと魔法が使えるとなると話は違ってくる。あの闇司祭は悪の権化、巨大な魔力を操る存在なのだ。
 「…きちんと話さないと疑いは晴れそうにありゃしませんねぇ」
 コロナの怪訝そうな視線にハルは顔を歪ませた。
 「…仕方ねぇですねぇい…」
 ハルはぼりぼりと頭をかき、踏ん切りをつけるように宙に向かって一つ息を吐いた。
 「……まぁ、笑い話くらいに聞いてくだせぇ」
 苦笑したその表情がタバコの煙にかぶった。
 トーンとファルルはハルをじっと見つめ、興味津々に耳を傾けている。コロナも黙って聞いている。
 「―ところで、あんた方はどちらへ?」
 声の調子を変え、ハルはそっ頓狂なことを聞いてきた。唐突な質問に一同は目を丸くする。
 「…久遠の泉だが…?」
 やや沈黙あってから、コロナが答えた。
 「あちゃー…」
 ハルが頭を抱える。何でそんな頭抱えられたのか意味がわからず、コロナはトーンとファルルと顔を見合わせた。
 「何かあんの?」
 「ありまサァ。とびっきりの爆弾が」
 「爆弾!?」
 ハルの言葉にトーンがひっくり返った声を上げる。
 「ば、ば、爆弾って…どういうことなんだよ?」
 ファルルも驚いたようで、しどろもどろに尋ねた。ハルはふぅーと煙を吐き、銜えていたタバコを手に持ち替えた。煙が手の動きにあわせて螺旋状の渦を作る。
 「悪いことは言いません。久遠の泉には立ち寄らない方がいいですぜい?」
 「爆弾があるから?」
 素直なトーンの言葉に、ハルはうんうん頷いた。
 「…ただの爆弾ならいいんですけどねぇい…これまたヒステリックに投げてくる人がぁいる訳ですよ」
 なんとなくわかった気がする。
 「…爆弾を持った危険な奴が久遠の泉に潜んでいるのか?」
 「80点ってとこですかねぇ?」
 ―100点じゃないのか、惜しいな、ちっ。…コロナは誰にも聞こえない程度に舌打ちをした。
 その舌打ちを聞いていたか聞いていなかったか、ハルは苦笑したように続ける。
 「爆弾を持った危険な『奴ら』でサァ。―盗賊集団。『チョイナー・ベル』っていう破壊大好きな集まりでねぇ」
 「…チョイナー・ベル?」
 そういえばそんな名前の盗賊の記事を読んだことがある。他国であったことらしいが、爆弾を持った盗賊がいきなり襲ってきて、家財をあらかた盗んだ上に家を木っ端微塵に爆破した…というものだ。あまりにも豪快なやり方に記事の信憑性を疑ったものだが、
 「本当にそんな奴らがいたのか」
 「これがね、いるんですよ」
 真面目に驚いているコロナに、真面目にハルが答えた。


     * * *


くわえタバコのハルさんが書けてシアワセ…
なんだか変な盗賊が出てきました。名前の雰囲気からしてあいつらが犯人に違いないです。

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旅戦の王女 第60話『盗賊を拾った日6』

 ふと、素振りの音が止まった。
 本から目を離しファルルを見ると、彼は川原の方を黙ってじっと見ていた。コロナも川原を見る。と、
 「やっほー」
 トーンが手を振りながら現れた。表情はにこにこと華やかだ。―そして、
 「………」
 その後ろを、あの怪我人がついてきていた。
 白い髪に、サイドから流れる髪は燃えるような赤と冴え冴えとした金。瞳も同じように左右違うオッドアイ。―コロナは無意識に身構えた。
 (…ブランクと同じ…?)
 あの闇司祭ブランクもオッドアイだった。記憶違いでなければブランクのオッドアイは紫と金色であった。しかし目の前にいる人物は赤と金…。違うと言えば違うし、でも類似する金色の瞳が気になる。
 怪訝そうなコロナの表情を感じ取ったのか、目の前の人物はオッドアイの瞳を細めた。
 「あんた達が助けてくれたんですかィ?」
 訛りがある言葉遣いだった。どこの地域の訛りかわからなかったため、彼の口癖なのかもしれない。声はどことなくは中性的な響きを持っており、耳さわりのいい声だった。
 「もう歩いていいのか?」
 そう聞いたのはファルルだった。
 「おかげさまでねぇ…ほら」
 そう言って手や足を動かしてみせる。どうやら治癒の魔法は効果があったらしい。トーンが体を拭いたためか、泥や血のあとも綺麗になっている。
 よくよく見ればとても端正な顔立ちをした人物であった。
 髪の色や瞳の奇抜さに目を奪われてしまいがちだが、整った目鼻立ち。真っ白で抜けるような肌。ひらひらとした体のラインがわかりづらい服装なため、さすがに体格まではわからない。しかし、ひらひらとしているが材質は軽そうで、稼動域が広い分動きやすそうであった。
 (…シーフ?)
 コロナはそう感じた。剣士にしては軽装すぎるし(ファルルのことはとりあえずおいといて)魔法使いとも雰囲気が違う。ただの村人ということも考えられるが。その人の目はただの村人のものではなかった。
 さりげなく、こちらのことを『見て』いる。
 値踏みされているような嫌な感覚に、コロナは顔を背けた。
 トーンは背の高いその人物を見上げて眉毛を八の字にする。
 「本当はもっと休んでてって言ったんだよ?でももう大丈夫だーって言っちゃってさー」
 「だから本当に大丈夫なんでサァ。トーンのおかげで生き返えりましたって」
 申し訳なさそうに言うトーンの肩を叩きながらにかりと笑った。それを見てトーンが「うん」と笑った。どうやらいつの間にか意気投合しているらしい。
 和気藹々としている二人を見ながら、コロナとファルルはぽつりと置いていかれた気分になる。
 「…おっと、申し遅れましたねェい」
 そんな気分を察してか、オッドアイの人物はコロナとファルルに向き直り、その赤と金の瞳を凛と、しかし意地悪っぽさを残した輝きで見つめる。
 「…俺はハルモニアと言いまサァ。…ハルって呼んでくだせェ」
 にかりと笑った。
 「俺はファルル!よろしくな!」
 真っ先に名乗ったのはファルルだった。こちらも猫のように無邪気な笑顔でにかりと笑い、右手を出す。ハルはその右手を受け取り握手を交わした。
 「………」
 その和やかな様子を、コロナは怪訝そうに見つめる。
 「…あんたは?」
 ハルが右手を差し出してくる。
 正直、この会ってわずかしか経っていないハルを信用していいかはわからなかった。闇司祭ブランクとの関係性は今の時点では立証できない。それに―ハルはまだ何か隠している。―そう感じられた。
 「…コロナー?」
 黙ったままでいると、トーンとファルルが心配そうに見つめてきた。疑うことを知らない二人には、コロナの心の葛藤などわかるはずはない。
 このまま自分の中で押し問答していても仕方ないと判断したコロナは観念したように、 
 「…コロナだ」
 石を吐き出すように重苦しい口調で名乗った。
 「…信用ないようですねぇい」
 ハルは苦笑した。



気がつけば60話目…
今回はストック分があるのでしばらくは食いつながりそうです。

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